デイトナ500は2.5マイルのデイトナ インターナショナル スピードウェイが
舞台になります。GT6でも収録されているのでよく分かると思いますが、
旋回半径が大きいのでひたすらアクセル踏みっぱなし。
一見とても楽そうに見え、そしてそんなレース本当に面白いのか?
ただアクセル踏んでるだけだろ?と思えてしまいます。
しかし実際に起こっていることを知るとそうでないことが分かります。
まず単純に、ひたすら踏みっぱなしですので、リア スポイラーが
とにかく小さく、ダウン フォースがあるんだか無いんだかよくわからない
見た目をしていて、ちょっとしたことで姿勢を乱します。
「あっ」と思ったら手遅れで、後ろにいる人たちはもうその車が
自分の方に向かってスピンしてこないことを祈りながら動くしかありません。
自分だけ速くてもどうにもならず、運に頼る部分が多々あります。
デイトナ(とタラデガ)は、約800馬力そのまんまだと恐ろしい速度になって
危険なため、吸気制限装置によって500馬力近くにまでエンジン出力を落とされます。
スタート時など、見るからに他のレースより加速が鈍くて、最高速に到達するのに
丸々1周近くかかります。GT6でもそれっぽく仕立ててありますね。
それゆえに、200mph(約322km/h)あたりで完全に空気の壁に当たってしまい、
全く加速しなくなります。
その車の後ろに付くと、ドラフティング(スリップ ストリーム)に入って
空気抵抗が小さく、あるいは車両後部の気圧低下による吸い寄せ効果があるため
当然後ろの人のほうが速く走ることができます。というわけで車は縦に並びます。
そして、加速した後ろの車は、前を行く車をゴツンと押して加速させ、
間隔が空くと自分はまたそのドラフトを使って加速する、いわゆる
バンプ ドラフト、という技術で車を前に進めます。
デイトナはインベタに走っても全開で十分走れるので、最大3列の車列が
できることがあり、これがまるで駐車場のように狭い間隔に詰め込まれて走ります。
320km/hで、ターンではステアリングを切りながらこれをやるわけですから、
想像できない技術です。
ストレートなら簡単だろ?実はそうではありません。後方のスリップ
ストリームだけではなく、走行中の車に当たった風はあらゆる場所に複雑な渦を
形成し(カルマンの渦と言うと思います)、車両の両側面にも引き寄せたり、
突き放したりする力が働いています。サイド ドラフトと呼ぶこの現象で、
ただ横に並んで同じ速度で走っているだけでも不意に車はふらつきます。
普通は左右に関しては影響がない程度に距離が開いていますが。
また、後続車がゼロ距離まで接近することで、前走者のリア ウイングが
ストールしてしまい、本来車の後方にできるはずの渦が無くなって
余計な空気を引きずらなくなるので抵抗が前走者の抵抗も減ってしまう
リーディング ドラフト、という他カテゴリーだとまず見られない現象も起こるそうです。
GT5から、後続車が追突してきた際に、かる~く触る程度だったはずなのに
いきなりリアのグリップがなくなって、リア ウイングが外れたんじゃないかと
思うぐらいあっさりとスピンすることがあるんですが、プロデューサー 山内 和典曰く、
これがリーディング ドラフトをイメージしたものだそうです。
私は始めてこれに出くわしたとき「すげえリアルにスピンしたwww」と
何度もそのリプレイを見てしまいましたw
つまり、ターンで発生すると、接触してもいないのにスピンします。
下手したら、直線でレーンを変えようと思ってステアリングをちょっと
切っただけで「さいなら~~」になります。
こうした風、あるいは空気の力と言うべきか、この見えない存在がデイトナで
大切になってきます。そしてなんと友達付き合いも鍵になります。
前に出たい人は横に出なければいけません。しかし横に出た瞬間自分が
空気の壁に当たります。
ここで、後ろから「俺も俺も!」と付いてきてくれると、自分が今度は
バンプしてもらう側になります。しかし、もし誰も付いてこないと、、、
自分だけが壁に当たった速度で単独走行となり、下手をすると隊列が全部
通り過ぎるまで車列に入れてもらえず、いきなり最後方に下がることになります。
チーム メイト同士が助け合うのはもちろんですが、必ずしも同じ場所を
走行するとは限らないので、日ごろから友達付き合いがあるとお得です(意外とマジな話)
利害関係とか、メーカー同士の繋がりとか、その場その場の連帯が生じます。
一緒になって走る人のことをドラフティング パートナーとか呼びます。
見た目分かりにくいですが、サイド ドラフトの力を利用した追い抜きもあり、
ちょっと詳細は忘れてしまったんですが、一般的に勢いよく並びにいくと
ポーンと突き放されるように速度を得れる一方、中途半端だと逆に
追い返されるようなイメージだったと思います。
「じゃあひたすら2位で走って、最後の最後だけ抜いたらよくね?」
と思ってしまいますが、何せ相手が42台いますし、全員その考えだと
全員2位を狙いに来るので結局2位を巡って競争が起きるので同じこと。そして
最終ラップにえらい事になりますから、その通りいくはずもありません。
また、できるだけ抵抗を減らすため元々車両前部のラジエーターの
開口部をギリギリの大きさしか開けていないので、後ろばかり走っていると
オーバー ヒートの原因となります。
そして、1500kg以上もある車ですからタイヤはガンガン減っていき、最初は
ベタ踏みだった車が徐々にバランスの悪化で滑り出したり、あるいは
曲がりづらくなってイン側にはいれなくなったり。全周にわたってベタ踏み
コースにはならないため、接触やスピンが起きます。
GT6でタイヤの無くなるまでデイトナを走ってみてください。めちゃくちゃ
怖いですからw
中にはそうした事故に巻き込まれるのが怖いので、わざと集団から
遠~~~~く離れた場所を走る作戦に出る人もいます。ただこれは、
うっかり独りぼっちになったり、予想外にコーションが出なかったりすると、
周回遅れになったり、挽回する時間が訪れないままレースが終わってしまいます。
ピット戦略も大事で、バランスの良い人は片側のみ交換、あるいは無交換で
大きく時間を稼ぐこともできますが、上記の通りバランスが悪いとデイトナとはいえ
事故や速度低下の原因になります。
集団走行でダウン フォースが減る中でオーバー ステアになったりなんかすると
もう最悪です。
コーション中でない、いわゆるアンダー グリーンの場合は、チーム間や
いま周りにいる人のピットタイミングを合わせて同時に入るのが鉄則。
いくら燃料が余っているからと言って、独りで走っているとタイムが遅くて
もんのすごいアンダー カットをされた上に、ピットアウト後のパートナーがいなくて
最悪周回遅れになります。
あくまで大事なのは最後の最後に先頭にいることなので、レース中盤までは
最後に思いっきりラインを変えまくってブロックしまくっても暴れないように
車を仕上げながら、最後に良い位置に入れるようにレースを組み立てる準備期間。
周回数が減ってくるにつれてだんだんと順位を入れ替えようとする動きが
目立ち始め、それが事故を呼び、コーションが発生し、、、を繰り返しながら
残り周回数が一桁になり、「そろそろ最後のリスタートか」という頃合に
なると益々動きが大きくなり、そして最後の2周あたりからむちゃくちゃになりますw
こうした多種多様な要素の上に成り立っているのがデイトナのレースで、
何も知らずに、特に序盤の動きの少ない展開を見ると
「NASCARくっそつまんね」で10分で見るのをやめてしまいますが、
「最後にほぼ間違いなくなんかあるぞ」と知っていると、たとえ途中経過は
見なくても、その最後の何周かを見るだけでも興味が湧いてくるものだと
私は思っています。
F1やGTを最後だけ見ても何も得しないことが多いですが、最後だけ見ても
面白いのがNASCARレース、特にデイトナ、なんです。
とりあえず走ってさえいれば同一の形でほぼ同一のエンジンなので、
他のトラックでは全く勝てそうにない人がいきなり勝ったりもします。
いつもこの締めになりますが、単純で、馬鹿っぽく見えるレースの裏には
他のトップ カテゴリーと同様の緻密で複雑なものがたくさんあるのです。