2014年のNASCAR スプリント カップ シリーズはチェイス制度の
大変革で事前の予想が困難な1年となりました。
従来の「26戦を終えて選ばれた12人で、10戦のポイントで争い決める」から
「16人を選んで3戦ごとに成績下位4人を落とし、勝ち残った4人で
最終戦の成績だけで決める」に変わったことで、必ず決定は最終戦になり、
かなり人為的に争いを混乱させる制度は、発表時さすがに不評でした。
しかしいざ始まってしまえば、特に3度訪れるエリミネーション ゲーム
(敗退を賭けた1戦)は非常に盛り上がり、結果だけを見れば成功だったようです。
この制度のどう考えても最大の意図であった「ジミー ジョンソンの一人勝ちを
阻止して他のやつにチャンピオンを取らせよう」は機能し、最終的に残った4人は
全て別のチームで、しかも3メーカーが揃いました。
逆から言えば、同じチームから何台も残ったり、1つのメーカーしかいなかったら
結構しらけるのかもしれません。チェイスに使われるイベントは、特に何か
考えているわけでもなく、寒くなってくると暖かい地方で開催しているに
すぎないので、人によっては「このラウンドは苦手なとこしかない!」みたいな
こともあるでしょうし、本来は順番や開催地をもっと工夫すべきでしょう。
個人的に今年の盛り上がりは、残った人の顔ぶれ、最終戦のレース展開等が
ものすごく面白くなるようにはまったためで、毎年こう面白く
「いやー面白い年だったな」とはならないのではないかと思いました。
◎ハービック戴冠!
チャンピオンを獲得したケビン ハービック。2001年、突如デイトナで生涯を終えた
デイル アーンハートの後任としてカップ戦の人生を始めて14年目での初タイトル。
デビュー以来一筋で過ごして来たリチャード チルドレス レーシングを離れて
今年スチュワート ハース レーシングに加入し、移籍即王座。
元々の決勝のうまさに予選の速さも足され、なのになぜか運だけが足りない
シーズン中盤を過ごしましたが、そこで厄を落としたのか最後の踏ん張りどころで
再び流れが噛み合いました。ジョンソンに対抗しうるドライバーとして2015年も
期待できそうです。
◎元気を無くしたトヨタ
2013年はマット ケンゼスが最多の7勝を挙げるなど年間15勝し、しばしば
圧倒的速さを見せ付けていたトヨタ カムリ勢でしたが、今年はデニー ハムリンと
カイル ブッシュが1勝ずつしただけ。明らかにシボレーに対してエンジンで
負けており、フォードの雄・ペンスキー レーシングより車の完成度で劣っていました。
Generation-6車両1年目は、うまくセットのツボを先んじて掴んでいたのが、
その優位性が無くなったようにも見えましたし、微妙に変更された空力等の規則に
逆に対応できなかったような感じもありました。
トヨタ系2台勢力の1つであったマイケル ウォルトリップ レーシングが、
2013年に不正な順位操作を行ったことに端を発して、大口のスポンサーを失い
弱体化したのも一因と言えるでしょう。
2015年はまた規則に微修正があるので、また勢力図に変化が起きるかもしれません。
なおトヨタは市販カムリのフェイス リフトに伴って2015年型からレース車両の
デザインもマイナー チェンジされます。
◎若い力
トップドライバーの顔ぶれが10年経っても変わらないのはNASCARとSUPER GTの
お家芸的ところがありますが、2014年は2人の新人、
2013年のネイションワイド シリーズ王者・オースティン ディロンと
同シリーズ新人王のカイル ラーソンがデビュー。
チームオーナー・リチャード チルドレスの孫であるディロンは開幕のデイトナ500で
いきなり速さを見せて「おっ」と思わせたものの、決勝での力がやや不足しており、
結局トップ10フィニッシュ3回、最高位8位でポイント20位。チーム メイトの
ポール メナードをわずかに上回る成績でしたが、レースで目立った回数は
メナードのほうが上だったと思います。ちなみにメナードは全米3位のホームセンター、
Menardsの創業者・ジョン メナード ジュニアの息子。ジョンはForbesの世界長者番付で
資産額9.6億$で130位だそうです。日本だと松下 幸之助の息子とか、
そういう感じのドライバーですね。
一方のラーソンは第5戦でいきなり2位に入ると、その後も印象的な走りを披露。
特に1.5マイルの高速トラックで大外のラインからぶち抜く姿は強烈で、
結局トップ10フィニッシュ17回、トップ5にも8回。残念ながらチェイスに
入れなかったものの、その鬱憤を晴らすようにチェイス開始後の8戦中6戦で
7位以上に入り、チェイス ドライバー以上の速さを見せて、チェイス外の
ドライバーでは最多得点を獲得してシリーズ17位。未来の王者を感じました。
個人的には、彼らに次ぐ新人でポイント3位。弱小のHScott Motorsports
(読み方が分からんw)でありながら総合29位になったジャスティン オールガイアーも
かなり素質があり、いいチームに入れば伸びるんじゃないかと思いました。
ちなみに私と同い年。
◎裏技登場!?
写真がないと分かりづらいんですが、今年の終盤からだと思いますが
「ボディーの一部をわざと曲げる」という空力セットがトレンドになりました。
リア タイヤの前の部分のボディ パネルをボディーの片側でだけ曲げて、左右の
空力バランスを意図的にアンバランスにしてターンを速く回る意図のようです。
どうやらレース前にやると車検に通らないので、ピット作業時に曲げるようなのですが、
最終戦でテレビに映されたその様子では、なんとクルーがタイヤを替えた後、
車が発進するまでのわずかな瞬間に手で「グイッ」っと曲げていました。
スプーン曲げじゃないんだから^^;ていうかそんな雑に曲げて本当に速くなるのか!?
さすがNASCAR。今年禁止されるのかは謎です。
◎スチュワートの死亡事故
今年のNASCARは、レース外とはいえこの大きな騒動で揺れました。
事故の詳細は散々書いたので割愛するとして、これがきっかけで
「クラッシュ後も車から降りるな」という新規則ができ、安全面が再考されました。
刑事で不起訴となったスチュワートにその後動きは無いようです。
死亡したケビン ウォード ジュニアに関しては、大陪審の審理後の会見で
「判断力を低下させるだけの量のマリファナが検出された」と公表されました。
ただ、アメリカにおける麻薬の使用環境等が私には分からないので、
これがそもそも使ってレースしているのが論外なのか、それ自体はままあることなのか、
レース前にそういったチェックは無いのか、といった背景が分かりません。
ただ、麻薬を使用して車を運転すれば、無事完走しようがクラッシュしようが、
危ないのは当然で、もし事前に調べない、罰則規定が無い、それが当たり前、
といった文化であるなら、これを契機に改善を図るべきだと思いました。
◎来期の変更点
さて、2015年も車両に細かな変更がありますよ、とNASCAR.comに動画があり、
相変わらず何て言ってるのかあんまり分からず見てみましたが、
1つはエンジンに、テイパード スペイサー(tapered spacer)という、
吸気制限装置だと思うんですが、これが装着されて、出力が725馬力程度に
落ちるそうです。パワーが落ちると高速域で空気の壁に当たって加速が鈍る時期が
早くなるので、追い抜きがしやすくなる、と説明されています。
もう1つはリアのスポイラーで(こんだけでかくて重くて速く走る車がウイングじゃ
ないのがこのレースのすごいところ)制限高さが2インチ低くなるようです。
確か2013年に「ピーキーで乗りづらい」「後方乱気流を受けると暴れて抜けない」
という声が合って、2014年は暫定的に上に伸ばしたはずなので、
「何だ、みんなちゃんと乗れてるじゃない。しかもやっぱり抜けないし^^;。
だったらやっぱりダウンフォース削ってやれ」みたいな感じで低くしたのでしょう。
みんな無事故でひたすらグルグル回り続けるレース、確かに増えました。
Generation-6は空力依存度を従来より高めたために後方乱気流が従来より
増加して追い抜きが難しくなり、車の戦闘力が多少劣っていても
先頭を走ってクリーン エアーを受けるとかなり速い、というのがあったので、
追い抜きを増やし、ミスによるクラッシュも増やしたいのでしょう。
しかし思い通りに行かないのがこの世界。チーム・ドライバーはまた頭をリセットして
色々考えるでしょう。
プレ シーズン戦、スプリント アンリミテッドは2月14日。もうあと1月半後です。