モータースポーツジャーナリスト、赤星真樹夫氏の寄稿によるコラムの4回目。
今回は分かっているようで分かっていないトルクとパワーのお話。
 
 macコラム第四回
「速さに必要なのはトルク?パワー?速い車の真実に迫る!」

 車のエンジンには様々なパラメーターがあります。その中でも特に皆さんが
気にかけられているのはトルク、パワーの2項目ではないでしょうか?
 しかし、速く走るために必要なのはトルクなのか、パワーなのか?
トルクが高いと加速が良くなるのか、パワーが高いと最高速が上がるのか、
そもそもトルクとパワーってなに?という人もいるかと思います。
今回は、トルクとパワーの正体を探ろうと思います。
 
 まずはトルクです。
トルクとは、軸にかかるモーメントの大きさで、単位は
N・m(ニュートンメーター)です。
エンジンでいえば、クランクシャフトの軸から1m離れたところに
加えることのできる力、となります。
GTなどでの表記にそろえるなら9.8N(kgf・m)となります。
 わかりやすい例を出します。
自転車のペダルを想像してください。そのペダルの長さは1mです。
トルクとは、そのペダルを踏む力、となります。当然大きい方が
大きな推進力を得られます。
ならば、トルクが高いと加速が良くなるのか?
答えは否です。

 先ほどの自転車の例で言うと、ゆっくりと100kgfの力で踏んでも、
超スピードで100kgfの力で踏んでも、トルクは同じ100kgf・mとなるからです。
そこに、速さの概念はありません。
 
 そしてパワー。
これは出力と呼ばれ、そのエンジンが発揮できる仕事率を指します。
単位はPSが一般的ですね。
1PSとは、75kgの荷物を1秒間で1m持ち上げる仕事率と定義されます。
 ここで重要なのは、出力には時間と距離、つまり速さの概念がある、ということです。
つまり、トルクと違って、パワーは加速、スピードに直結するということです。
又、パワーは、トルクから計算することができます。
式は トルク(kgf・m)×回転数(rpm)×0.0041=パワー(PS)となります。
この式を用いることで、そのエンジン単体の実力を計算することができます。
 
 たとえばここに2つのエンジンがあります。
20kgf・m/4000rpmのエンジン1
15kgf・m/6000rpmのエンジン2
さて、どちらが実力が高いエンジンなんでしょう?
 
エンジン1のパワーは20×4000×0.0041=328ps
エンジン2のパワーは15×6000×0.0041=369ps
カタログ上のトルクが低いエンジンの方が出力が高い、ということになります。
 これは、エンジン1の方が大きな力を出せますが、エンジン2の方が
効率よく仕事をできるということです。
夜遅くまで仕事をしている人と、時間内に同じ量の仕事をこなす人の違いですw
 さらに、パワーウェイトレシオの考えも追加しておきましょう。
パワーウェイトレシオとは、1PSあたりに担当する重量のことです。
当然、この値が小さいほど、エンジンの負担が軽くなります。
必然的にエンジンの実力が発揮しやすい車ということになります。
 そして、GT5にはこれ以外にもパフォーマンスポイント(PP)
という数値が設定されています。
その車の大体の実力を測る数値で、特に車重、トルク、パワーに
影響されるようです。だからトルクが上がればPPも上がる。
計算式は不明ですが、まぁ当然といえば当然です。
これで、エンジンを腐らせてトルクを下げる理由がわかったと思います。
トルクが下がればその分出力が下がるため、PPが下がる。
そうすれば同一PPに調整するときに、
リミッターを高くできて出力的に有利になるからですね。
 又、リミッターをかけることによって、主に高回転域のパワーが
削られる傾向にあります。エンジンが低回転化すれば当然出力が
下がってしまうことは、上記の式からも明確です。
リミッターをなるべく100%に近づけることは、エンジンを
高回転化することにもつながります。
 
 エンジンのパラメーターはこれだけではなく、レスポンスや出力曲線など、
様々な要素で実力が決まります。
ですから、一概にエンジンを腐らせるのがいいわけではありませんが、
多くの車で当てはまります。
又、高回転型のエンジンが優秀な理由もわかったかと思います。
最高トルクを発生する回転数が
高ければ高いほど、出力は上がるからです。
 理想は最大回転数で最大トルクが出ることなのです。まぁ、
そんなエンジンは存在しませんが。
ワタシがチューニングの際、エンジンの回転数にこだわって、
多少出力を犠牲にしてもコンピューターやマフラーを交換する理由もここにあります。
見かけ上の出力が下がっていても、回転が上がることにより、最高トルクでの出力が
上がっている場合が多いからですね。
 だからと言って、トルクが必要ないのか、というとそういうわけではありません。
トルクと回転数をうまく兼ね合いできるように調整することが重要なのです。
 又、低回転、高トルクのエンジンは、扱いやすく、ダートやスノーで
力強く前進してくれるというメリットもあります。
ラリーベース車のエンジンに低回転型が多いのもこの理由です。
 
 トルク、パワーの特性がわかることで、ギアの調整や、シフトタイミングの
見直しに役立てばと思います。
又、パワーバンドとは、最高出力回転数と最高トルク回転数の間となりますので、
これも意識してみてください。
シフトアップの際、なるべくパワーバンド内に収まるギア比にすることで、
加速の強化につながります。
 
 それでは今回はこのあたりで。
 
 皆様、よきGTライフを!