① 幸福の哲学

 

 

幸福の哲学の序

 

 

 

本書は幸福はあなたの掌中(しょうちゅう)に既にあると云うことを示さんとする書である。

 

 

 

『生命の實相』十五巻(編者注原著発行時の巻数)字数無慮三百七十八萬字、もっと手軽に易しく實践的に書いて欲しいとねがわれることも久しいものである。

 

 

 

或はそのために『光の泉・人生讀本』を書き、『力の泉・向上讀本』をものし或は『花嫁讀本』を世に送り出して、懸命にこの哲学の平易化をはかったが、そのために四百萬読者からは著者へ無数の手紙が来る。

 

 

 

最初はいちいち自筆で返事を書いていたが、今では到底いちいち返事を書くことはおろか、封を切るだけでも非常に時間を要することになった。

 

 

 

ここに思いついたのは、それらの人たちに手紙で返事を書くかわりに、返事を親しく書くと同じ、しみじみとした思いで書簡文體の「生命の實相」哲学を書いて見ることにし、私の個人雑誌「行(ぎょう)」にー年間つづいて連載したものをー冊にまとめたのが本書である。

 

 

 

一冊にまとめて自分で読んで見るとまた深くまとまった感じをして心を打つものがあるように思う。

 

 

 

私のこの哲学はヘーゲルの哲学や、佛教の哲学にも似ているが、それが日本的であるのと、實践的なことに於いて独特な味わいがあり、効果があるのである。

 

 

 

この味わいは、書翰文體を利用することによってー層ふかく出てくれたとも思うし、出てくれているであろうことを期待するものである。

 

 

 

 

わたしの願いはこの幸福の哲学によって、一人でも多くの人々が幸福を得られんことである。

 

 

 

後半は實際に幸福を得られて歓喜のあまり自発的に私に送られた手紙を纂(あつ)め、その中で、心機一転で病気の治った禮状を思うところあって殊更(ことさら)に省いたのである。

 

 

 

而も他の種類の悦びの感謝状の中にも時々一二行まじって出て来る病気治癒の禮言は編輯者にお願いして成るべく消すように努力して貰ったのである。

 

 

 

これらの禮状を単なる禮状として閑却(かんきゃく)しないで、悉(ことごと)く眼光紙背(がんこうしはい)に徹す低(てい)の心で読んで頂きたいのは、哲学は實践を伴い、實践は功徳を伴い、功徳は信を喚起し、信は哲学を生活力たらしめ、道環一貫して、―つのものであるからである。

 

 

 

読者は本書を読んで、もっと貴い幸福を享(う)けられることを希望する。

 

 

 

皇紀二六〇〇年紀元節に方(あた)り建国の大理想を仰ぎつつ

 

昭和63年

 

著者識す