○ いのちがいのちに直接(じか)に触れる 



だから生命の實相では目をつぶって、神想観という座禅瞑想の行事をやる訳なんです。



それを實修するには、先ず「吾れ今五完の世界を去って實相の世界に入る」と念じます。



五官というのは眼耳鼻口皮膚の五つの感覚です。この感覚を去って眼球(めだま)を引抜き、耳を引抜き、鼻を引抜き、舌を引抜き、皮膚をはがして一切の感覚をなくしてしまって、そして生命(いのち)が裸になっていのちがいのちに直接(じか)に触れた時に、人間の實相というものがわかるのです。



其の時にこそ吾々の生命(いのち)の實相が神の生命であって完全であるという事がわかる訳なんです。 



人間の實相は「神の生命(いのち)」であるから、完全であるほかはない。



生命の實相で「病気は無い」と云うのは、それは現象の話ではない。



大抵の人は「病気が無い」と云うと、「この通りに病気があるじゃないか」と反論する人があるのでありますけれども、併し乍ら病気が「ある」と「無い」とか云うのは、現象的に病気があらわれて見えるという問題ではないのであります。



その説明の為に一つ實例を申し上げますと、私が新潟県の糸魚川という所で講習をやったことがある。糸魚川というと富山県との県境に近い所であります。そこへ上野きみいさんと云われる人が講習を受けに来て、講習会の體験談発表という時間に自分の體験を発表されたのでした。



その上野きみいさんが云われるのには、自分の子供が―六歳位の男の子らしいが―その子が耳だれで毎朝起きると耳から黄色い液體がまあ二合程も枕の上に流れているって云うんです。もっともゴムかビニールの敷物を枕の上に敷いてあるんでしょうけれどももね。それで、あんまりこれはひどいから医者へ行かなければいかんと云うので、その子をつれて、赤十字病院の耳鼻科へ連れて行ったと云うのであります。これは上野さんが大阪に住んでいられた時のことだそうです。そうしたら耳鼻科の科長さんがそれを見て、



「あんたこの子供、あんた本当のお母さんですか」こう言われた。「ハイ、私は本当の母です」



「あんた本当のお母さんなら、ようも、ようも、こんなひどくなる迄放っといたですね。これはもう骨膜まで冒されとるですがな」と言って、そのお医者さんは耳の中にピンセットで挟んだ綿をつっ込んでシューッとやって引出すと水飴の様なねばい黄色いものがジューッと引出されて、途切れないでいくらでも流れ出して来ると云う状態なんですね。で医者は、



「これは骨膜まで冒されとるから今すぐ手術しなければ生命(いのち)が危いかも知れん。併し今日は手術の準備をしとらんから、明日はね、必ず連れて来なさいよ。あんた本当のお母さんですか?」



と、もう一遍念を押して、「本当のお母さんならね連れて来るんですよ、この子の生命(いのち)に関わるんですよ」こう言われた。




○  病気があるんじゃない、あらわれている



それから上野きみいさんは、その子供を連れて電車に乗って自宅へ帰りつつあったと云うのであります。そうしたら、ちょうど、その電車に乗り合わせて来られたのが鎌田先生と言われる生命の實相の地方講師の先生である。きみいさんは、時々この鎌田先生から生命の實相の話を聞いたことがある。



その鎌田先生が上野さんに、「あんた何処へ行きなさった?」



「いや、わたくしね、この子供があんまり耳漏(みみだれ)が出るので赤十字病院へ連れて行ってみて貰ったら大変なんです。骨膜まで冒されとるから明日は手術せんならんと言われたのですがね、それで心配してるんです」



と言いましたら、鎌田先生が、「あんた病気なんてないですよ、人間は神の子だから」とこう言うんです。



「ないちゅったってあるんですよ、お医者さんがピンセットに綿はさんでタンポをこしらえて、それを突込んでこうやったら、いくらでも水飴みたいに黄色い膿が出るんですよ、病気あるんです。現にこのように」



上野きみいさんがこう言いましたら、鎌田先生が



「それは病気があるんじゃないですよ、病気があらわれているんですよ」こう言われた。



「あらわれているのと、あるのとは違うんですよ。人間は神の子であって、病気は絶対無いんですよ、それが實相と云うものなのですよ。



そういう風に膿が沢山出ているようにあらわれているのは現象で、それはあんたの『心の影』」があらわれているんですよ。



『子供は親の心の鏡』と教えられています。



あんたね、“良人の言うこと絶対聞きたくない”と思っているでしょう。



耳というものは“聞きたい”と云う心が拵(こしら)えた器官なんだ。



それが“聞きたくない”と云う心になったら、“聞きたい”と云う心が拵えた器官をこわすことになるんですよ。



あんた、母親がそういう心を持っているから、子供にそれが映って、そして、あんたの“聞きたくない心”があらわれとるのであって、病気があるのじゃ
ないですぜ、



あんたの心反省して、その“聞きたくない”と云う心を捨てたら、そしたらそんな耳の病気消えてしまうんですよ。あんた胸に手を置いてよく考えてそんな心捨てなさいよ」



こう言われた。



そして鎌田先生は電車を降りて行かれた。



つづく