荒れ果てた村に辛うじて息のある村人がいた。何が起きたのかを聞き出すため、必死に手当をするセロをよそに「ハマタニはどこにおるのだ!」と口にするオーズ。
「こいつがハマタニだよ」
ポロンが小さく言った。
「なんだと!貴様がハマタニか。貴様に話がある。はやく立て!」
「うぅぅ」と苦しそうな音を倒れているのを村人こそがハマタニであった。
「そんなことできる状態じゃねぇだろうが馬鹿野郎」
ポロンは勝手なオーズを一喝した。
「じゃ、早く治すのだ!」
「あの生き血はねぇのかよ」
「こいつらにはHPというものは存在せん。使っても無駄だ。早くどうにかしろ。こいつと話せねばここまで来た意味はない」
「持ってきたぞ!」と近くの川から汲んでき水を急いで村人の口に流したケルケル。咳こんだ村人だったが、しばらくすると口を聞けるまでに落ち着いた。
「一体なにがあったのですか?」
セロの言葉に答えようとした村人だったが、魔王の姿を目にすると急に怒りを露わにした。
「なぜあなたはこのようなことを!こんなことする必要ないだろ」
感情に任せたせいで再び咳き込んむ村人。その言葉に魔王を疑いの目で見た三人。
「私が何をしたというのだ!」
「ユーラがいきなり襲ってきたんだよ!お前がそう命令したんだろ!なんでだよ、こんなシナリオなかったはずだろう」
「そんなことはどうでもよい」
「よくないだろ!」
「アンナはお前にはやらぬ!そう約束しろ!」
この状況からとても繋がらないオーズの言葉に静寂が広がった。その静寂の中で村人は強く咳き込み出した。
「おい、大丈夫ですか?」と聞いたセロにハマタニは最後の力を振り絞って言葉にした。
「早くこの魔王を倒して俺たちを・・・」
ハマタニは息を引き取った。
「おい!なんとかしろ!」というオーズの言葉をよそに、セロは優しくハマタニ瞼を閉じた。
「どういうことだよオーズ。お前の仲間はタロウ探してんじゃなかったのかよ」
ケルケルはオーズの胸ぐらに必死に手を伸ばした。
「私が知りたいわ」
「てか、アンナってなんだよ?姫だろ?どういうことだよ」
「私はただ、アンナがこいつを好きと言ったから」
「なんだよ!?もしかして、それでハマタニを倒しに来たっていうのか?」
「しかし、これでは意味がない。こいつに私こそアンナに相応しいと認めさせねば意味がないのだ!ユーラめ」
「ふざけるのもいいかげんにしろよ」
「ふざけてなどいない、本気だ。しかし、もうこうなってしまっては
この物語にもうようはない。さぁ、私を倒したまえ!そして、ハマタニを復活させるのだ!私はなにもせぬ」
「やってやろうじゃねえか」
大きな銀に光るハンマーを捨てた魔王にケルケルは言うと、
「私ものった!一石二鳥だろ!」とポロン。
胡座をかいたオーズを挟んだ二人の動きをセロが止めた。
「おそらくそれでは物語は終わりません?」
「そんなことはなかろう。魔王のこの私を倒すことがこのゲームの最終目的ではないか」
「そうです。魔王を倒してアンナ姫を救う事こそが」
「セロよ、もういいじゃねぇか。魔王も倒してくれって言ってんだからよ」
「待ってください!それで平和は訪れますか?」
「それは・・ ・」
牙と共にケルケルはむき出しにした敵意を引っ込めた。
「そうだな、確かにセロのいう通りかもしれねぇな」
ポロンも同様に脱力し、手を下ろした。
「平和な世界を取り戻すことこそが最終目的なのです。魔王のあなたを倒したところで、平和はきません。ユーラを止めない限りには」
「てことは、俺らはまずユーラを倒すしかないってことかよ」
「おそらく」
ケルケルもその筋の通った理屈に納得した。
「しかし、この世界のすべて建前だ。みな演じているだけ。平和が来れば終わるのなら、とうに終わっているだろう」
「そうです。その通りです。今までならシナリオ上での平和が物語の終わりでした。しかし、その建前が現実になってしまった今、どうなるかわからないのです」
「とはいえ、私を倒せば物語は終わるかもしれないではないか。それで元に戻るのなら」
「戻らなかったらどうなります。この世界がどう変えられたのかもはやわかりませんが、ユーラのこの行動はもはや私たちに倒されるという役から外れているとしか。そんなユーラに私たちだけで勝てるでしょうか?私たちは倒れても生き返ります。以前のタロウのように。しかし、こうして死んでいったもの達も、そして、ここで死ねばあなたも私たちがユーラを倒さない限り、世界はリセットされず生き返ることはないかと」
セロはそう言うと村中に倒れる村人を見回した。
「お前らと共にユーラを倒せと?」
その問いにセロは頷いた。
「笑止!」
「いや、今はそうするしか」
膠着状態の四人の前に遠くからモンスターの大群が。そのモンスターたちは雑魚キャラに似合わない剣に鎧を身につけている。それは旅の序盤に一向が手に入れるアイテムであった。
「おっ!みーつけた」
先人を切って歩いていたリーダーらしきモンスターの嫌味ったらしい言葉が響いた。
立ち上がるセロとケルケル、ポロン。そして、魔王オーズの巨体がその奥でそびえ立った。
「なんで魔王も一緒なんだよ!?まっいっか、ユーラ様にお伝えしろ」
そう言うと、隣りのモンスターは立ち去って何処かに消えて行った。
「ユーラだけでなく、貴様らまでもこの私に逆らおうというのか?」
魔王の怒声にモンスター達は笑い声を上げ、それは渦を巻いて大きくなって行った。
「俺らみたいなキャラはてめぇらの経験値の足しにしかなんねぇ。そんな俺たちにユーラ様は力を与えてくれた。みろよこれ。もう倒されるだけの雑魚じゃねぇだろ」
リーダーモンスターは手にした剣を自慢げに舐めまわし、笑みをこぼした。
「あなた方、そんなことしていたら、この世界に平和はきません。物語は終わらず、休みはこないのですよ」
セロの言葉にいっそ憤りを露わにするモンスター達。
「お前らはいいよ!いい役もらって。俺たちは生き返って倒されるの繰り返し。そんなのウンザリだった!しかし、今は違う。この力で、終止符を打つのさ。ユーラ様が魔王となれば好き放題だ。この物語は終わらせねぇ」
「魔王はこの私だ!貴様程度が勝てる思っているのか」
そんな魔王の言葉に耳など傾けず、戦闘体制を取り身震いをし、今にも襲ってきそうなモンスター達。
「おい貴様ら、こいつらを倒せ!」
魔王は一向に命令した。
「おいオーズ、無理だぜそりゃ。俺たちは敵うはずないぜ」
「やるのだ!」
ケルケルの弱気な発言を怒鳴り声で制した。その怒鳴り声はモンスター達の合図となり、大群が一斉に勢いを成して迫ってきた。
「もうやるっきゃないだろ!行くぞ」
ポロンが先人を切って立ち向かうと、悲鳴混じりの声を上げてケルケルも走り出した。
「魔王さん、あなたも」
セロが促すが魔王は動こうとはしなかった。そして、セロ覚悟をきめて戦火に飛び込んだ。
ここの戦力差は歴然。数にも劣るポロンとケルケル、セロの三人の苦戦など目に見えていた。ケルケルが必死に噛みつき引っ掻くもその丸い牙と爪は鎧の前では無意味であった。ポロンも魔法使いではあるが覚えた魔法などもちろんなかった。魔法の杖は ただの棒と成り果て、セロの棍棒もそれと同様だった。三人は大群に弄ばれるように袋叩きにあい、そのHPはみるみるうちに減っていった。その時だった。重い低音と共に地が揺らいだ。その揺れの激しさにモンスターの大群はよろけ、倒れこむ。そして、辺りに立つものはただひとり。地に巨大なハンマーを振り下ろしたオーズだけであった。
「貴様らの私への反逆は承った。地獄の果てで後悔するが良い!」
オーズはそのハンマーを軽々しく肩に背負い、ドシドシと歩みを始めた。その姿の前ではどんなに着飾ったモンスター達とてただの雑魚キャラであった。
向かいくるモンスター達はオーズのが一振りする毎に吹き飛ばされ、動かなくなっていく。見る見る大群は減り、あっという間に最期の一人となった。そいつはモンスターの先人を切ってしゃしゃり出ていたものであったが、今では命乞いをする弱気ものと成り下がっていた。
「魔王様、お助けください」
魔王が一歩進むとそのモンスターも人づ去り。そして壁に追い込んだオーズの顔はまさに化け物であった。武器を捨て、手を上げるモンスター。下半身につけた鎧の隙間から尿がこぼれていた。
「ユーラに伝えるが良い。ただでは済ませぬと。わかったか?」
「はい」
そう言うとオーズはハンマーでコツっモンスターが身につける鎧に当てた。一瞬でヒビがその鎧のを走り回り、二瞬の後、砕け散った。
怯える体を必死に動かして、何も発せず一心に走り去った裸のモンスター。魔王は目で追うことすらしなかった。そして、次の瞬間、倒れてその一部始終を目にしていたケルケル、ポロン、セロの頭上でレベルアップ音響き、こだました。
「セーブしますか?」
「はい」
冷たい風に男は目を覚ました。同時に痛みが走った。這うように立ち上がり、村を歩いて回った。農家の夫婦、そして、カスミを探して。あたりはすっかり焼け野原となり、煙っぽい空気に喉が水を欲したが、歩いて回った。そして、しばらくして、農家の夫婦が倒れているのを見つけると精一杯の力で駆け寄り二人に呼びかけた。
「起きてください!」
懸命に繰り返す声も届かないのか、二人はビクともしない。それでも呼び続けた男の声に農家のお母さんの瞼が動いた。
「大丈夫ですか、お母さん?」
ゆっくりと目を開けたその目から、涙だけが零れ「カスミ、カスミ!」と繰り返した。
「カスミさんはどこですか?」
男の問いにも答えず名前だけを呼び繰り返すお母さん。ふと隣りで意識を戻していたお父さんが口を開いく。
「鬼に連れ去られてしまった」
男は紐の切れた人形のように、崩れ落ちた。そして、自分の力のなさを思い知った。
「起きてください!」
懸命に繰り返す声も届かないのか、二人はビクともしない。それでも呼び続けた男の声に農家のお母さんの瞼が動いた。
「大丈夫ですか、お母さん?」
ゆっくりと目を開けたその目から、涙だけが零れ「カスミ、カスミ!」と繰り返した。
「カスミさんはどこですか?」
男の問いにも答えず名前だけを呼び繰り返すお母さん。ふと隣りで意識を戻していたお父さんが口を開いく。
「鬼に連れ去られてしまった」
男は紐の切れた人形のように、崩れ落ちた。そして、自分の力のなさを思い知った。
「おい魔王さんよ。これどこに向かってるんだよ!」
ケルケルは先を行くオーズに問いかけた。
「うるさい!黙ってついてこい」
ケルケルにポロン、セロはオーズに連れられて見知らぬ荒野夜通し歩かされていた。どうやらこの道はメインルートから外れたものらしく果てし無い地の先に水平線が広がっている。
「俺はもう疲れた!もう無理だ!」
そう言って座り込んだケルケルだったが、オーズは足を止めようとはしない。ドシドシと音を立てて先を進んでいく。
「オーズさん、私たちの体力は限界です。どこかで少し休ませていただけませんか?」
セロのお願いにも耳を貸さないオーズ。ポロンは重い足を必死に回し、オーズの前に立ちはだかった。
「なんだ?」
「疲れたっつってんだよ!休ませろ!」
「その口の聞き方はなんだ!」
足を止めたオーズは殺気に満ちた目でポロン睨んだ。
「お二人共そう睨み合わずに。魔王さんにもなにかお考えがあるのでしょう」
セロがそう言うと、オーズは腰に携えていた奇妙な瓶を三つ地に転がした。
「それを飲め」
そう言って再び歩き出すオーズ。三人は魔王が落とした瓶を手に取った。
ケルベロス、ポロン、セロは「悪魔の生き血」を手に入れた。
見たことのないアイテムだ。中には緑色の液体が波打っている。
「悪魔の生き血って、これ毒じゃねぇのか?緑だしよ」
「おい、ケルケルお前毒味しろ!」
「いやだよ」
強引にケルケルの口を開けようとするポロんをよそに、セロは瓶の蓋を開け、ごくごくと飲んだ。二人は呆気にとられる、そして心配そうに見つめた。
セロは「悪魔の生き血」を使った。体力が全回復した。
「これはすごい!」
感動するセロを目の当たりにした二人は急いで生き血を口に運んだ。
「すげぇ、これなんだよ!おい、魔王よ、なんだよこれ」
活力を戻したケルケルは魔王の元に全力で走っていた。
「セロ、怖くなかったのかよ。毒かもわかんなかったのによぉ」
「オーズっが今の私たちを倒すことなんて容易なはずです。わざわざ倒すためにこんな回りくどい真似はしないと思いまして」
ポロンはセロの冷静な見解に納得した。
「タロウの行方が全くわからない今、オーズさんにとりあえず身を任せましょう」
「そうだな」
そう言って再び歩き出した。
それから、一行は川を超え、山を越え、歩き続け、一夜をも越した。悪魔の生き血に助けられながらのある意味過酷な旅には、幾度もレベルアップ音が鳴り響き、ケルケル、ポロン、セロは地味にステータスを上げるのだった。そして気付くとある村に辿り着いた。木の立て看板にはヨーシ村と書かれていた。
「ここはヨーシ村ですね。知らぬうちに」
セロは驚いた。どれだけの遠回りをしたのかと。魔王は館から出たことがない世間知らずなのだろうと察した。足を止めたオーズ。なんのためにここへ来たのかわからない三人はオーズが口を開くのをまった。
「さぁ、私を案内したまえ」
少々の沈黙ののちにオーズが発した言葉は到底理解できるものではなかった。
「案内って観光じゃないんだぜオーズさんよ」
ケルケルの少しバカにした口調にも真顔のオーズ。
「タロウがここにいるっていうのかよ?」
不吉な空気を振り払おうと聞いたポロン。
「タロウ?勇者のことかそんなこと知らぬ」
「あっ?何言ってんだ?タロウ探しに来たんだろうがよ」
予感が的中したポロンの怒り混じりに言うも、オーズはついに笑い出してしまった。
「魔王さん、一体どういうことですか?」
セロは事態の把握のために問いただした。
「私がタロウを探すといつ言った?」
思いがけない発言に言葉を失う三人にオーズは続けた。
「とはいえ、事態は理解しておる。モンスター共には勇者を探すように命はうっておる。いずれ見つかるだろう」
「では、どうしてヨーシ村まで?」
「私はある男を探しに来たのだ。ハマタニという男を。さぁ早く案内しろ。勇者探しはその後だ」
予想外のことに目を丸くした三人。
「そうはいってもな。ハマタニ?知ってるか?」
しばらくしてケルケルはセロに聞いたが、首を振った。
「知らないはずがない!ローラは知っていたぞ!」
「ローラはしってるかもだけどよぉ」
目が血走るオーズに「知ってるよ、ハマタニだろぉ」ポロンは口にした。
「おぉ。そいつはこの村にいるのか?」
「いるけど。ただの村人だろ、あいつぁ。なんの用だよ?」
「そんなの言う必要はなかろう」
「あん?私たちをここまで連れてきてなんだこのやろう」
いてもたってもいられず喧嘩腰になったポロンをオーズはその巨体で見下した。
「随分と威勢がいいな。案内しないと言うなら、貴様の国を滅ぼしてもいいんだぞ」
「やってみろよ。滅ぼされてもな。てめぇ倒せば、またリセットされるんだよ!」
ここはゲームの世界。ポロンが言うように魔王を倒し物語が終われば次のゲームスタートに備えて、すべては始まりの状態に修復される。もちろん魔王もボスキャラも死んだものは全て生き返る。終わりから始まるまでの間こそ平和であり、すべてのものの休息なのだ。
「それはこの私が倒されればの話だろう。勇者のいないお前らにそれが無理な今、そんなことさせていいのか」
口喧嘩に負けたポロンは引くしかなかった。
「ポロんさん、魔王さんをそおハマタニという村人のところまで案内してあげましょう。今はそれしか」
ポロンは「あぁ」と覇気のない弱々しい声で返事をした。
「わかればいいのだ。さぁ、案内したまえ」
勝ち誇ったオーズを連れてヨーシ村に足を踏み入れた一向。そこで目にした村の姿に先日通った時の活気は皆無だった。荒れ乱された村の建造物に道を埋めて倒れる村人の姿だったが広がっていた。
その頃、ヨーシ村から離れた村でもまた別の悲劇が起ころうとしていた。幸せに寝ていたその男は村人の悲鳴で目を覚ました。窓から降り注ぐ明かりは朝日にしては赤すぎており、すぐに異変に気付いた男は急いでドアを開けた。
「なんだこれは?」
燃え盛る炎が一面に広がり、その中から悲鳴が聞こえてくる。急を要する事態に男は急いで居候先の夫婦そして、カスミが寝ている奥の部屋へと駆け込んだ。
「起きてください!はやく!」
急な目覚めに困惑していた三人もすぐに状況を察した。
「これはいかん。逃げるぞ」
農家の父は家族を急かし、そして軽い身支度を整えた。男は折れたブーメランを握りしめると「早く逃げてください」と放った。
「だめ!いやだ」と首を振るカスミを強引に引っ張り裏口から家を出た三人。男はそれを見届けると、玄関から外へ出た。火の海の中にひとつの黒い影。近づくに連れその輪郭は鮮明になり、ついにその巨体が姿を現した。炎に負けないくらいの真っ赤な体に大きな金棒。男は覚悟を決めるのだった。
「セーブしますか?」
「はい」
ケルケルは先を行くオーズに問いかけた。
「うるさい!黙ってついてこい」
ケルケルにポロン、セロはオーズに連れられて見知らぬ荒野夜通し歩かされていた。どうやらこの道はメインルートから外れたものらしく果てし無い地の先に水平線が広がっている。
「俺はもう疲れた!もう無理だ!」
そう言って座り込んだケルケルだったが、オーズは足を止めようとはしない。ドシドシと音を立てて先を進んでいく。
「オーズさん、私たちの体力は限界です。どこかで少し休ませていただけませんか?」
セロのお願いにも耳を貸さないオーズ。ポロンは重い足を必死に回し、オーズの前に立ちはだかった。
「なんだ?」
「疲れたっつってんだよ!休ませろ!」
「その口の聞き方はなんだ!」
足を止めたオーズは殺気に満ちた目でポロン睨んだ。
「お二人共そう睨み合わずに。魔王さんにもなにかお考えがあるのでしょう」
セロがそう言うと、オーズは腰に携えていた奇妙な瓶を三つ地に転がした。
「それを飲め」
そう言って再び歩き出すオーズ。三人は魔王が落とした瓶を手に取った。
ケルベロス、ポロン、セロは「悪魔の生き血」を手に入れた。
見たことのないアイテムだ。中には緑色の液体が波打っている。
「悪魔の生き血って、これ毒じゃねぇのか?緑だしよ」
「おい、ケルケルお前毒味しろ!」
「いやだよ」
強引にケルケルの口を開けようとするポロんをよそに、セロは瓶の蓋を開け、ごくごくと飲んだ。二人は呆気にとられる、そして心配そうに見つめた。
セロは「悪魔の生き血」を使った。体力が全回復した。
「これはすごい!」
感動するセロを目の当たりにした二人は急いで生き血を口に運んだ。
「すげぇ、これなんだよ!おい、魔王よ、なんだよこれ」
活力を戻したケルケルは魔王の元に全力で走っていた。
「セロ、怖くなかったのかよ。毒かもわかんなかったのによぉ」
「オーズっが今の私たちを倒すことなんて容易なはずです。わざわざ倒すためにこんな回りくどい真似はしないと思いまして」
ポロンはセロの冷静な見解に納得した。
「タロウの行方が全くわからない今、オーズさんにとりあえず身を任せましょう」
「そうだな」
そう言って再び歩き出した。
それから、一行は川を超え、山を越え、歩き続け、一夜をも越した。悪魔の生き血に助けられながらのある意味過酷な旅には、幾度もレベルアップ音が鳴り響き、ケルケル、ポロン、セロは地味にステータスを上げるのだった。そして気付くとある村に辿り着いた。木の立て看板にはヨーシ村と書かれていた。
「ここはヨーシ村ですね。知らぬうちに」
セロは驚いた。どれだけの遠回りをしたのかと。魔王は館から出たことがない世間知らずなのだろうと察した。足を止めたオーズ。なんのためにここへ来たのかわからない三人はオーズが口を開くのをまった。
「さぁ、私を案内したまえ」
少々の沈黙ののちにオーズが発した言葉は到底理解できるものではなかった。
「案内って観光じゃないんだぜオーズさんよ」
ケルケルの少しバカにした口調にも真顔のオーズ。
「タロウがここにいるっていうのかよ?」
不吉な空気を振り払おうと聞いたポロン。
「タロウ?勇者のことかそんなこと知らぬ」
「あっ?何言ってんだ?タロウ探しに来たんだろうがよ」
予感が的中したポロンの怒り混じりに言うも、オーズはついに笑い出してしまった。
「魔王さん、一体どういうことですか?」
セロは事態の把握のために問いただした。
「私がタロウを探すといつ言った?」
思いがけない発言に言葉を失う三人にオーズは続けた。
「とはいえ、事態は理解しておる。モンスター共には勇者を探すように命はうっておる。いずれ見つかるだろう」
「では、どうしてヨーシ村まで?」
「私はある男を探しに来たのだ。ハマタニという男を。さぁ早く案内しろ。勇者探しはその後だ」
予想外のことに目を丸くした三人。
「そうはいってもな。ハマタニ?知ってるか?」
しばらくしてケルケルはセロに聞いたが、首を振った。
「知らないはずがない!ローラは知っていたぞ!」
「ローラはしってるかもだけどよぉ」
目が血走るオーズに「知ってるよ、ハマタニだろぉ」ポロンは口にした。
「おぉ。そいつはこの村にいるのか?」
「いるけど。ただの村人だろ、あいつぁ。なんの用だよ?」
「そんなの言う必要はなかろう」
「あん?私たちをここまで連れてきてなんだこのやろう」
いてもたってもいられず喧嘩腰になったポロンをオーズはその巨体で見下した。
「随分と威勢がいいな。案内しないと言うなら、貴様の国を滅ぼしてもいいんだぞ」
「やってみろよ。滅ぼされてもな。てめぇ倒せば、またリセットされるんだよ!」
ここはゲームの世界。ポロンが言うように魔王を倒し物語が終われば次のゲームスタートに備えて、すべては始まりの状態に修復される。もちろん魔王もボスキャラも死んだものは全て生き返る。終わりから始まるまでの間こそ平和であり、すべてのものの休息なのだ。
「それはこの私が倒されればの話だろう。勇者のいないお前らにそれが無理な今、そんなことさせていいのか」
口喧嘩に負けたポロンは引くしかなかった。
「ポロんさん、魔王さんをそおハマタニという村人のところまで案内してあげましょう。今はそれしか」
ポロンは「あぁ」と覇気のない弱々しい声で返事をした。
「わかればいいのだ。さぁ、案内したまえ」
勝ち誇ったオーズを連れてヨーシ村に足を踏み入れた一向。そこで目にした村の姿に先日通った時の活気は皆無だった。荒れ乱された村の建造物に道を埋めて倒れる村人の姿だったが広がっていた。
その頃、ヨーシ村から離れた村でもまた別の悲劇が起ころうとしていた。幸せに寝ていたその男は村人の悲鳴で目を覚ました。窓から降り注ぐ明かりは朝日にしては赤すぎており、すぐに異変に気付いた男は急いでドアを開けた。
「なんだこれは?」
燃え盛る炎が一面に広がり、その中から悲鳴が聞こえてくる。急を要する事態に男は急いで居候先の夫婦そして、カスミが寝ている奥の部屋へと駆け込んだ。
「起きてください!はやく!」
急な目覚めに困惑していた三人もすぐに状況を察した。
「これはいかん。逃げるぞ」
農家の父は家族を急かし、そして軽い身支度を整えた。男は折れたブーメランを握りしめると「早く逃げてください」と放った。
「だめ!いやだ」と首を振るカスミを強引に引っ張り裏口から家を出た三人。男はそれを見届けると、玄関から外へ出た。火の海の中にひとつの黒い影。近づくに連れその輪郭は鮮明になり、ついにその巨体が姿を現した。炎に負けないくらいの真っ赤な体に大きな金棒。男は覚悟を決めるのだった。
「セーブしますか?」
「はい」
