森田side
森田「…うっ、気持ち悪い」
朝、少し体を起こすと
ものすごい怠さとめまいに襲われた。
あー、また体調崩しちゃったんかな。
いつもなら無理してでも行くんやけど、
今日の気持ち悪さは我慢できるもんじゃない。
これはお仕事も無理かな…
なんとかスマホを取って、マネージャーさんに
気分が悪いので休みますとだけ連絡をする。
森田「ううっ…」
起こした体はベッドへと逆戻り。
眠っているような、でも起きてるような、
中途半端な状態でボーッとしていた。
どのくらい時間が経ったんだろう?
スマホで時間を確認する気にもなれない。
気持ち悪さは全然なくならないし、
体勢を変えるのもしんどいから
ずっと天井とにらめっこ。
小林「あっつい、なにこれ」
…ん?誰かの声が聞こえた気がする。
気持ち悪すぎて幻聴まで聞こえるのかな。
一人暮らしの家には誰もいないのに。
鍵の開く音も聞こえなかったし…
いや聞こえたら聞こえたでめっちゃ怖いけん、
聞こえんでいいけど。
小林「ひかるー?」
…由依さんの声?
廊下から聞こえた気がする。
でも今日はレッスンの予定だったし、
由依さんがここにいるわけなんてない。
こんなにはっきりした幻聴が聞こえるのは
いよいよヤバイかもと思って寝ようと目を瞑る。
小林「あ、いたいた、ひかる?」
森田「んん…」
小林「ひかるー、聞こえる?」
森田「…ん、はい」
小林「よかった、聞こえてるね。
汗すごいじゃん、ちょっと起き上がれる?」
森田「…むり、きもちわるいけん」
小林「わかった、じゃあ横向こうか、手伝うから」
本当に由依さんがいた。
聞き間違いじゃなかったけど、
まだふわふわした頭は何も考えられない。
されるがままに体は横向きになって、
うっすら目を開けると心配そうに眉毛を下げてる
由依さんと目が合う。
小林「ひかる、これ飲んで」
森田「…いらん、きもちわるいけん」
小林「お願いひかる、気持ち悪さなくすためだから」
口元に差し出されたストロー。
気持ち悪さが勝って飲みたくないんやけど
由依さんにお願いされてるなら飲むしかない。
小さく口を開けてるとストローを近づけてくれた。
頑張って吸い込んで液体を流し込む。
たぶん大して口の中に入ってはない。
でも急に体に入った甘さを感じる飲み物に
拒絶反応が出そうになる。
森田「…んん、はきそう」
小林「一回吐く?」
森田「…いや、だいじょぶ」
小林「そう?じゃあちょっとリビング行ってくるね」
私の頭を優しく一撫でして部屋を出ていく由依さん。
吐き気が落ち着いたから
由依さんがサイドテーブルに置いた
ペットボトルをよく見る。
やけに甘いから変な飲み物かと思ったら
普通のスポーツドリンクか。
いつもと比べると倍以上遅いスピードで
頭を回していると由依さんが帰ってくる。
小林「ひかる、一個聞いていい?」
森田「ん…」
小林「エアコンのリモコンどこ置いた?
いつものところにないんだけど」
森田「りもこん…」
小林「そう、エアコンのやつ」
リモコン、どこやったっけ?
リビングのテーブルにないってことは…
夜は帰って点けずにすぐ寝ちゃったから、
昨日の朝置いたところ…
森田「そふぁ」
小林「ソファーにある?」
森田「そふぁ…の、めっそん」
小林「あぁ、アイツの近くね、わかった」
何度も教えるのに一向に名前を覚えてくれない
メッソンをあいつ呼ばわりして
由依さんはまたリビングに行っちゃったみたい。
ピッと音がしてエアコンが喋りだすと
由依さんはまた戻ってきてくれた。
小林「はい、ひかる。もう一回飲んで」
森田「ん…」
何度か繰り返すうちに飲める量も増えて
やっとのことで起き上がれた。
飲んでる最中、目線だけ上げると
由依さんと目が合って口角が上がる。
小林「どう?まだ気持ち悪い?」
森田「さっきよりは、いいです」
小林「うん、それならよかった。
もう少し落ち着いたら着替えよっか」
その後も飲み物を定期的に飲んで、
由依さんに手伝ってもらいながら着替えた。
背中の汗を拭いてくれてるときは
恥ずかしすぎて顔を覆わずにはいられなかった。
一段落してまたベッドに横になると、
由依さんが私の頭を撫でながら話し始める。
小林「たぶん熱中症かな」
森田「ねっ、ちゅーしょー?」
小林「…っ、そう、暑いのに
エアコンつけてなかったし」
森田「寝てる間にもなるん?」
小林「なるってネットに書いてあった」
森田「へぇ…」
小林「しばらく少しずつこれ飲もうね」
森田「ゆいさん、なんで顔、赤いの?」
小林「えっ?」
森田「ゆいさんも、ねっちゅーしょー?」
小林「…それ以上しゃべらないで」
森田「なんで?」
小林「無理、さすがにしんどい」
森田「え、大丈夫ですか…?」
小林「んーもう、ベッド半分空けて」
言われた通り少し体を動かしてベッドを空けると
私の横に寝転ぶ由依さん。
一回私を抱き締めた後、
体を離してまた頭を優しく撫でてくれる。
森田「ゆいさん?」
小林「ほんとにもう…治ったら覚えといて」
森田「なにをですか?」
小林「なんでひかるは体調悪いとき
いつも煽ってくんの」
森田「…ん?」
小林「我慢するの、大変なんですけど」
我慢するのが大変?煽ってくる?
…あ、そういうこと?
え、でもどこにそんなポイントが?
熱中症の話をし始めた頃から
由依さんの顔が赤くなり始めて…
もしかして小学生がやるようなあれで
照れちゃったってことなんかな?
え、なにそれめっちゃかわいい。
由依さんの子供っぽいところを見つけて
なんだかウキウキしてきた。
森田「ゆいさん」
小林「なに?」
森田「ねぇっ、ちゅー、しよー?」
小林「…っ、あのさ、聞いてた?」
森田「我慢はよくないですよ」
小林「…もう知らないから」
森田「ふふっ」
小林「…体、万全じゃないんだから
きつかったら言ってよね」
森田「由依さんそれでやめれると?」
小林「…ひかるが辛いならやめる」
いつでも私を大事にしてくれる
由依さんが本当に大好き。
でも大丈夫ですよ、という気持ちを込めて
由依さんの首に腕を回す。
それを合図に由依さんから優しいキスが降ってきた。
少し前までの気持ち悪さはどこへやら、
由依さんのお陰ですっかり気持ちよくなりました。
最初は本当に体調が悪くてレッスン休んだんやし、
明日のレッスンはなんとしてでもキスマーク隠さんと…
なんで今日に限って、
わざわざ見えるとこにつけたんやろ。
まぁいっか、愛されてる証拠やけ、
と思って由依さんにくっつく。
由依さんの肌の温もりを感じながら
もう一度眠りについた。
Fin