熱は下がっている。
チバがいない初めてのトーナメント。
気力もある、食欲もある。大丈夫。
吉と出るか凶と出るか。。。なんて考えながら
外のテラスでスズとひたすら待つ。
「最初が大事だからね。気を引き締めていってらっしゃい。」
そんなのナリのほうがよっぽどわかってるのに
いちいち言う私。魔除け、願掛けよね。
40分くらいして帰ってきた。
ニッコリ笑って「勝った。」
この笑顔がたまらんない。
帰ってくるときの表情で分かるけれど
結果を聞くまではいつも通り。
初戦で負けたり引き分けだと
1、2,3位は難しい。
結果を聞いてギュッと抱きしめた。
それからナリの大好きな
お稲荷さんを食べて
なるべく体力を使わせないように
試合の合間のサッカーは控えさせた。
いつも、サッカーで体力使い過ぎて
4,5,6回戦のときに
負ける確率が高い。
おまけに今回は薬で熱抑えているし。
2、3ともスムーズに勝ち進んだ。
ここからが鬼門。
4回戦では、ランキング1位の子と対戦で負けて帰ってきた。
ナリは今回ランキング6位でスタート。
大丈夫。1位に負けるのは想定内。
ナリが恨めしそうに
サッカーで遊んでいる子たちを横目で見ていたから
「10分だけならいいよ。」
というけれど、自分で自制していたナリタ。
おっ、ナリが珍しく我慢してる。
去年、4回戦までストレートで勝ち進み、5、6でまさかの連敗。
悔しくて泣いていたナリ。去年のほうが今年より
子どもも私も頑張ってたからショックが大きかったな・・・なんて思いながら5回戦に出発。会場まで入る親がほとんどだけれど
私は、行かない。
ナリが一人で出陣するのを
遠目から見る。背中に自立心や頼もしさすら感じる。
親が介入できない世界にナリは一人で進んで行く。
誰の力も指示も受けず、一人でもぎ取ってくる勝利。
でも、次勝ったらテラファイナル・・・と雑念が。
欲張ったらいけないと言い聞かせながらも
ドキドキ。だめよ、だめ。期待しちゃいけない。
横では、アルゼンチンとフランスのサッカーの試合で
お父さんたち大興奮。
徐々に試合を終えた子供たちが帰ってくる。
大泣きして嗚咽している子も珍しくない。
親がなだめている。
心を落ち着かせるために本を読む。
でも、内容が入らない・・・。
だから読んでいるふり。
ちらちらナリタが帰ってくるのを待っている。
平常心よ平常心。
そうしているうちに
スズが「なりたくんが帰ってきたよ。」
遠くにいるナリの表情を読み取ろうとしたが
怖くてやめた。
近寄るまでニッコリで待っている。
ナリが戻ってきて親指を上げて
「勝った。」とえくぼグリグリしながらつぶやいた。
ナリがいつもよりたくましい。
あと一試合。
気を抜かないように、
遊び過ぎないように、
疲れすぎないように、緊張感切らさないように・・・
「ナリ、おかあさんとチェスしようよ。」
「うーん、いいよ。」
私とチェスをした。
おかあさんがチェスをするっていうのが珍しいから
子供たちが集まって私の手を見ている。
ナリより弱いんだけれどね、いいのいいの。
さ、5時だ。最終戦。
朝10時からゲームだったから7時間の長丁場。
いつも通り、いってらっしゃいとギュッと抱きしめて
見送った。親も一緒にホールへ行くので
閑散とした待合室。
ナリタがホールに入ったのを確認した後、
対戦相手が上位から書かれている表を初めて見に行った。
こういうの、ほぼどの親御さんも
毎試合ごとチェックするんだけれど、人ごみが苦手なのと
欲が出ちゃいそうで、いつもは見ない。
でも、つい、最後の試合、可能性があるとなると
どれどれと人がいなくなった後、見に行った。
ナリ、2位につけてる。
ウルッと来た。
これで、負けたら0,5ポイント差で敗退。
勝てばテラファイナルへ行ける・・・か。
久しぶりに、つい、祈ってしまった。
席に戻り、本を読みながらも
相変わらず内容が入らない。
ナリが戻ってきた。
表情が読み取れない。
ドキドキ。
「勝った。」
「え?勝った???」
「僕、たぶん、テラファイナル(最終戦)行けると思う。
二人(トップ1,2)が引き分けだったから
僕、2位になったと思う。でも、まだわからないけど。」
思わず、大きな音で手と手をタッチ、ハグ。
よくがんばった。
ぬか喜びにならないように、表彰式まで喜びを7割くらいで我慢した。
6時45分、表彰式開始。
9歳の部で2位、ナリタが呼ばれた。
自信持って表彰台のほうへ行くナリタ。
チバがいない分、なぜかすごく頼もしく見える。
本当に、ナリにこの自信が持たせられてよかった。