【あらすじ】

青木外科医院で手術中に患者が死亡した。
死亡したのは執刀した院長・周作の父・征十郎。
取材した美和子は、同病院の勤務医・小林から、征十郎の死は手術中のミスが原因で、周作は過去にも2度医療事故を起こしていると聞く。
右京と亀山は、なぜ征十郎が腕の立つ小林に執刀を頼まなかったのか疑問を抱く。
調べると、征十郎の本来の執刀医は小林だった。
小林は手術を始めたと同時にめまいに襲われ、急きょ、周作に代わりのオペを頼んだと明かす。

 

【感想】

外科医・周作くん

法律の穴を突いた輿水脚本らしい作品。

医療ミスが起こると遺族が過失致死で訴え裁判を起こすのが通例。

だが患者と医師が親子関係なら、医師は自分で自分を訴える事になり裁判は起こらない。
もし医師が親を殺す為にワザと医療ミスをしたのであれば、それは完全犯罪になり得る…
どう生きてたらこんな発想が生まれるんだ…。

こういった発想の勝利みたいな内容は、評論家が贋作に騙されても見栄を張って被害届を出さないS19「超・新生」や、非協力的な目撃者をどうやって協力させるかを苦心したS14「警察嫌い」が思い起こされる。

シナリオとしては、青木周作医師の手術ミスで父親を殺された恭子の兄妹。
2人は共謀し周作が父である青木征十郎の手術を執刀する様に仕向け、更に周作に薬を盛り手術ミスが発生するように仕向ける。
そして亘が途中で手術を引き継ぎ征十郎にトドメを刺し、周作が父を死なせたという罪悪感を植えつけるというもの。

 

「復讐する心は途方もないエネルギーに支えられているんですね
虚しい…エネルギーに」

 

今回のテーマはシンプルに"復讐"。
二人は復讐の為に全てを懸けた。
亘は外科医になるほど勉強を重ねて、数多の命を救うほどの名医になって周作へ近付いた。
恭子は結婚して苗字を変え、事務員として周作の病院へ就職した。
亘は医者としての未来、恭子は結婚生活を捨てた。

そして今回の復讐の肝は周作を殺して為すものでは無く「周作を精神的に苦しめる」のが白眉。
飄々としてる周作を苦しめるのはかなりの難題だが、自分達と同じく"父親を失う苦しみ"を与えるという手法で身につまされているものなので説得力がある。
更に"自分の所為で死んだ"というおまけ付き。
実際周作が医療ミスをしなければ、こんな事は起こらなかった。

最後に殺意を認めたのは亘自身が語った通り、周作と同じような人間になりたくなかった事や既に目的を達してたから。
実際に周作も亘を殺そうとする程に。
このジタバタしない潔さは好き

ただ周作の人柄を考えるとあまり父親を死なせた事をダメージに思っていない…もしくは凹むのは一時的で数ヶ月もしたらヘラヘラしそうな気がする。
そうなると兄妹がやった事は周作に莫大な財産を与えただけになってしまう。
でも本人も「誤解されやすい」と言ってるし、こっちが想定してる以上にダメージがあるのかもしれない。

【古美門研介】
死んだからこそ意味があるんだよ
死は希望だ
その死の一つ一つが医療を進歩させてきた
現代の医療は死屍累々の屍の上に成り立っている
誰しも医学の進歩のためには、犠牲があっても仕方がないと思っているはずだ
その恩恵を受けたいからね
しかし、その犠牲が自分や家族であるとわかった途端にこう言うんだ
話が違う!!
なんで自分がこんな目に合わなけらばいけないんだ?
誰のせいだ?
誰が悪いんだ!
誰を吊るしあげればいいんだ!
教えてやる。
訴えたいなら、科学を訴えろ!

医療ミスが発生時に支払われる『医師賠償責任保険』について調べてみると、年間5万円で1事故につき最大3億円が支払われるらしい。(※2017年時点)

この制度について賛否両論はあるかもしれないが、個人的には賛成。
世の中は圧倒的な医者不足で救える命も人が足りないという理由だけで命を落とす人も少なくない。
そんな中で医者に厳罰を下せるようにすると医師希望者は減るし、今の医者もリスクを恐れて消極的になってしまう。
周作のように医療ミスを2件も起こしながら
「オペに100%はあり得ない」
「そもそも医者になんてなりたくなかった!」
みたいな事を言う医者は最低かもしれないが、逆に言うと2件しかミスをせず人を救い続けたという見方も出来る。

あっ、『脳外科医 竹田くん』のモデルになったM医師は別です。
1日でも早く医者を辞めて下さい。

 

ブレイク前の坂上忍

まさか相棒を観ていて坂上忍が出てくるなんて考えてもいなかった。
坂上忍って本当にお芝居できる人だったんだ。今はもう司会やって怒ってるイメージしかないから意外だった。言葉以上に目で語るという人間でしか成し得ない高度な表現技法を使いこなしている。
タレントから俳優に戻って欲しいと切に願ってやまない。
鶴見辰吾も出てくるけど、すごく若々しい。鶴見さんはこの後、「サクラ」で内閣情報調査室の審議官を演じるんだよね。
ラストも含め面白かった。隠れた名作だと思う。