過去の話。
私のはじめてのご主人様のはなし。
彼は死んだ。そして、実際には会ったこともない。でも、たくさんの愛をくれた。
思い出すと、涙が今でも止まらない。彼とのやりとりは今でもこっそり取っておいていて、見返すたび、彼の愛を、躾を思い出す。優しくて、でも切なくて。叶うはずのない一方的な恋、迫り来る彼との別れにいつも恐怖を感じながら、その日が来ないことを祈るばかりだった。
彼は、
お前を最終的には壊すのが目標だと、やさしくて、いたずらっぽい声で話していた。
私がその言葉で満たされると知っていたから。
彼が死ぬまえ、いつもよりもやりとりが増え、要求もより過激になっていった。多分、突き放そうとしたんだろう。従順に従わないと、彼が居なくなるような気がして、私は無理をしたし、彼の指示とはいえ最低なこともした。
それでも、彼に居なくなって欲しくなかった。もっと生きて一緒に楽しんで欲しかった。
冗談で、解雇なんて言われた次の日、
彼のSNSに
体調悪い
と一言。すぐに、LINEすると、
野良になる覚悟をしとけよ。
と。
もう覚悟は出来ているから大丈夫だよ。
それしか言えなかった。本当は嫌だと言いたかった。一緒にいくと言いたかった。
その2日後亡くなったと彼の妻から聞かされた。
私は、いつ彼のところにいけるのだろう。
そう思いながら、そっと彼との思い出を隠した。