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日本中が熱狂したロシアW杯の閉幕から3か月あまり。
しかし、ワールドカップが終了してもフットボールシーンは続いていく。 2019年1月5日からは、UAEで、AFCアジアカップが開幕する。
史上最多4度の優勝を誇る日本は覇権奪回へ意欲を燃やしているが、その前途はまさに多難、茨の道と言っていいだろう。
第一に気候が選手たちを苦しめることになる。 前述したように今回は中東・UAEでの開催となる。1月の東京の平均気温は6℃(最高)だが、1月のアブダビは24℃に達する。寒暖差は20℃近くとなり、いかにアスリートといえども、この寒暖差に対応するのは容易なことではい。
そのため日本サッカー協会も従来元旦 に決勝が行われる天皇杯をいわば「前倒し」して、代表選手を早めに事前合宿に招集できるようスケジュール調整し、コンディション調整に細心の注意を払っている。
というのも、人間の体には「汗腺」と呼ばれる汗を分泌する腺があるのだが、厳寒下では汗などかくはずもないのだが、これが
急に気温が20℃も上昇する環境下に移動し、激しい運動を日常的に行うとなればどうだろう。
汗腺は急に適応できない。 汗腺の中には、エクリン腺という部分があり、これが体温を下げる役目を持っている。 当然、何の対策もなく丸腰で臨めば、試合中にコンディション不良を起こす選手が多数現れるということは予見できることだ。そのため事前に現地に乗り込み、「汗をかく」とい うことを自然に行えるよう、体を適応させる。これが非常に重要なことだ。現代は昔と違い、長期遠征の際には、日本食シェフは帯同するので、選手に食事面でのストレスはない。各々が試合開始まで、万全の態勢でコンセントレーションを高めていく。
しかし、これだけの対策を施しても、中東勢にとってはいわば「庭」。この気候も「日常」なのだ。また、Jリーグ勢の選手はわずかなオフ期間の後、大会に臨むが、体は正直だ。 いくらモチベーションがあっても、疲労の蓄積は避けられない。 これから折り返しに向かっていく欧州勢と、国内組。コンディションのばらつきは否めないだろう。 そういった細かな部分が「差異」となって試合中に現れることもあるかもしれない。日本はそれらを 打ち破るだけの「個」であったり、パスワークで彼らを凌駕するしかないのだ。
また、大会中は気候以外にもアウェーの洗礼を受けるだろう。 いまや代表のほとんどが欧州でプレーしているが、この中東のスタジアムだけは雰囲気が異様だ。イスラムの文化の影響を受けているが、10万人もの観衆が白装束に身をまとい、怒号を浴びせるという空間は、いかなる経験をしてきても体験しえないはずだ。
この雰囲気に一刻も早く慣れ、普段どおりのプレーができるか。 練習でマスコミを非公開にしていても、隣のビルの最上階から偵察して、カメラに練習風景を収める、というのもこの地域ではよくある話だ。 とにかく従来の常識は一切通用しない。試合終了のホイッスルが鳴り終わるまで 、手綱を緩めてはいけない。
さて、日本に立ちはだかる壁、もうひとつは、強力なライバル国の存在だ。 その筆頭はなんと言っても開催国UAEだろう。
元々、「ボールをポゼッションし、人もボールも動くサッカー」を志向している日本だが、中東勢の対戦では、ボールを奪われた時、鋭いカウンターを受けるとどうしてもボールウォッチャーになるという悪癖は改善されておらず、逆サイドのフリーの選手がそのまま走りこんでアーリークロスを決められ失点、というシーンは散見されてきた。 彼らは常に高い位置での即時奪回を狙っており、前線には快速で、決定力の高い選手をそろえている。
このUAEに関しては「史上最高の選手」と評される、オマル アブドゥル ラフ マンがい る。特徴的なアフロヘアーで、サッカーに関心がなくても見覚えのある方はいるかもしれない。
この選手は19歳の頃からA代表入りを果たしており、2012年に行われたロンドン五輪に同国史上初出場を果たし、その牽引車となるなど、若年世代から天才と謡われてきた選手だ。カウンター攻撃に傾倒する効率性をとかく求めがちな中東にあって、足に吸い付くようなタッチのドリブル。テクニックは本物だ。また、状況判断、視野の広さも優れており、一瞬で局面を変える中長距離のサイドチェンジといったパスもお手の物だ。このように試合のリズムを変えられる選手がいることは日本にとっては非常に厄介だ。 この大会はヨーロッパの移籍市場のウインドーが解禁となる期間でもあり、世界各 国のビッグクラブスカウト陣が安価で獲得することができる「アジア」という市場から金の卵を持ち帰ろうと、全試合を注視している。オマルもビッグクラブへの移籍に鼻息は荒いだろう。
中東勢という点ではサウジアラビアとイランだ。両国ともにロシアW杯に出場しているが、前者はわずか1勝しかできず、開催国ロシアには完膚なきまでに叩きのめされた。 後者はポルトガル、スペインの前に勝ち点1及ばず惜敗。 勝ち点1というと聞こえはいいが、それが世界とのとてつもない差である。 特にW杯優勝を狙うような強豪国はグループリーグから全力疾走しないという「暗黙の了解」がある。
今でこそ低迷しているが、過去5度の世界王者に立ったブラジルには、このような格言があ る。「グループリーグは8割くらいで流せ。なぜなら優勝を争うような準決勝、決勝にコンディションのピークを持っていかなければならないからだ。 最初から全力を出すとその前に飛行機は墜落してしまう。」
追いついたと思っても、列強国もものすごいスピードで進化している。 常に鍛錬、研究は欠かせない。 サウジアラビアもかつてはアジアの盟主と呼ばれた強国だったが、W杯の舞台に戻ってくるのに12年かかった。イランも唯一アジアカップ3連覇を果たしている強豪国だ。 ともに捲土重来を期したいと誓っていることだろう。
虎視眈々と優勝を狙う07年王者のイラク、大会連覇を狙う豪州、この大会のタイトルからは半世紀以上遠ざかっている韓国など、たった一つの栄 冠をめぐって、多くの強豪国がしのぎを削る1ヶ月あまり。
これらすべてのライバルたちを日本は撃破しなければ、当然ながらアジア王座にたどり着くことはできない。
残された時間はわずか。 選手選考にも注目だが、代表候補選手の各クラブでの鍛錬、「個」という牙を研ぐ活躍にも注目したい。