撞の大御神、即ち天の御先祖の大神は、天地未分、陰陽未剖の太初に当りて、大地球の先祖として、国常立之尊を任じ玉ひ、大地の修理固成を、言依し玉ひしかば、国常立之尊は地上の主権を帯び、久良芸如す漂へる国土を修理し玉ふや、大神の施設、余りに厳格剛直にして、混沌時代の主管者としては、実に不適任たるを免れず、部下の万神は大に困難を感じ、衆議の結果、撞の大神に、国祖の退隠されん事を奏請するの、止むを得ざるに至れり。撞の大神は、玆に万神の奏請を嘉納せられたれども、一旦国土の主宰に任じたる上は、神勅の重、且つ大なるを省み玉ひて、容易に許させ給はず、一方国祖に向って少しく軟化すべく、種々慰撫説得なし給ひしかども、国祖の至公至平至直至厳の霊性は、容易に動かす可くもあらず、玆に撞の大神は、国祖の妻神たる、豊雲斟之神言に向ひて、国祖に諌奏す可く、厳命を降し給ひぬ。妻神は即ち坤の金神也。坤の金神は神勅を奉戴し、夫神に百方諌奏し給ひしが、元来剛直一方の国祖は、和光同塵的神政を好み給はざりけり。玆に撞の大神は、一方万神の奏請頻りにして、制御す可き方策に尽き玉ひしかば、断然意を決して、国祖を艮へ退去す可く厳命し給ひ、且つ詔り給はく、尓今我言を奉じて潔く退辞せば、我又時を待つて尓を元の主宰に任じ、且我は地に降りて、汝が大業を補助す可しと、神勅厳かに降下あらせられたれば、国祖も無念を忍び、数万歳の久しき歳月を隠忍し、世の成行を坐視し給ひたり。八百万の神の決議に因り、神政妨害者として、永久に艮に押篭めらるる身とは成り給ひぬ。玆に艮の金神の、名称始まりぬ。艮の金神は、其罪科の妻神に波及せむ事を憂慮し玉ひて、夫妻の縁を断ち、独り艮に隠退し給ひしが、妻神豊雲野の尊は夫神の困苦を坐視するに忍びずとて、坤に自ら退去されたり。是より坤の金神の名始まりぬ。夫神の苦難を思ひて、罪なき御身、且つ離縁されし御身乍らも、自ら夫神に殉じて、世に落ち玉ひし御心情は、実に夫婦苦楽を共に為す可き末代の亀艦なり。
『出口王仁三郎全集』第1巻,高木鉄男,昭和9.国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1138033』
