もう一か月も前のことですが、2019年4月10日に国立天文台が「史上初、ブラックホールの撮影に成功」と発表しました。

 

画期的な成果ではあるんでしょうけども、写真はこんなのでした。

 

【図1】この度撮像されたというブラックホール (Credit: EHT Collaboration)

 

いやいや。ブラックホールといえばこんなの(↓)だったはず。

 

【図2】図鑑などでよく見るブラックホール (Credit: NASA/CXC/M.Weiss)

 

ブラックホールに落ち行くガスの渦(降着円盤)と、その中心には勢いよく青白いジェットを噴き出す暗黒球。うん、これでこそブラックホールです。では、図1にはいったい何が写っているのでしょうか?

 

不思議に思っていろいろ調べてたら国立天文台の記者会見で、同天文台の本間希樹教授が教えてくれていました。本間教授の説明を要約すると、

 ・図1の写真に写ったものは降着円盤の姿でもジェットの姿でもなく光子球(直径1000億km)の姿。

 ・ジェットが写らなかったのは予想外で、ジェットはおそらく薄~く広がっており、その姿が写らなかったものと思われる。

 ・図1の写真に写った光子球を形成する電波がどこから来たかといえば、それは降着円盤やジェットかも知れない。

 

ということで、図1と図2は全然スケールが違いました。図2に描かれた円盤の中央のほんの1点を拡大して捉えたのが図1でした。図2に描かれたジェットの長さが1000光年以上(光が1000年かかって進む距離)にも及ぶのに対して、図1に写った光子球の直径はたったの4光日(光が4日かかって進む距離)です。図1と図2のイメージが似ていないのは当然でした。

 

「光子球の姿が写った」てどういうこと?

これはやはり本間教授が、日本天文学会発行の天文月報2018年6月号に寄稿した記事に理解しやすい説明がありました。光子球とはブラックホールの重力に捕らえられて、ブラックホールを回り続ける無数の光子(光のツブ)の集まりのこと。この光子球のすぐ外側をかすめて地球に向かう光子が「光子球の姿」として観測された、ということのようです。

 

言葉では難しいので、同記事中の図を拝借、少し加工しました。

 

【図3】ブラックホール周辺から地球へ到達する光子の軌跡

 

図3にブラックホール周辺から地球方面へ向かう光子の軌跡を描いてみました。中央のブラックホール付近から地球へ向かう光子(図3の黒い線)はありません。図3の青い線は、光子がブラックホールの重力に進路を曲げられて地球へ向かう軌跡であり、これが図1の光のリングとして、見えたようです。

 

つまり?

光を出さないブラックホールはどうやっても見えません。当然写真にも写りません。その代わりに「ブラックホールの存在証明となる光子の経路を撮影した」ということだったようです。図1の写真を直感的に理解しにくい原因はそこにあったような気がします。

 

それでも「ブラックホールにしか起こしえない現象を、人類が初めて撮影した」ことには変わりませんね。とても興奮しました。すごいぞ国立天文台!