表題部所有者不明土地の取得手続
1 はじめに 表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律(令和元年法律第15号。以下「適正化法」という。)が令和2年11月1日に最終施行されたことにより,所有者が不明な土地の一部について市場取引により取得することができるようになりました。 適正化法による手続は,令和3年に成立した改正民法における所有者不明不動産の管理制度(改正民法264条の2以下)とも関係する手続です(改正適正化法32条1項)。 どの土地が表題部所有者不明土地として探索等がなされているかについては,各法務局・地方法務局のウェブサイトに掲載されています。 なお,適正化法の概要については,下記の過去ブログもご覧ください。『所有者不明の土地の取得について』1 はじめに ある土地を購入したいという場合,通常は,その土地の登記を確認した上,登記上の権利者と交渉することによって土地を購入します。 ところが,登記を…ameblo.jp2 対象となる土地 適正化法による取得の対象となる土地は,表題部所有者不明土地のうち,適正化法第15条第1項第4号イ又はロの登記がされた土地(=所有者等特定不能土地)です(適正化法による登記がされていない土地については,令和3年改正後の民法第264条の2以下によることとなります。令和3年改正後の適正化法第32条第1項参照)。 所有者等特定不能土地については,表題部所有者欄に,「表題部所有者として登記すべき者がない[令和元年法律第15号第14条第1項第4号イ]」などと登記がされます。3 管理者選任申立手続⑴ 管轄 表題部所有者不明土地の所在地を管轄する地方裁判所(適正化法31条)⑵ 申立人となる「利害関係人」 所有者等特定不能土地の購入予定者や,所有者等特定不能土地を時効取得しようとする者などが,「利害関係人」(適正化法19条1項)に含まれます。⑶ 添付書類 所有者等特定不能土地の登記事項証明書(会社非訟事件等手続規則44条の2第1項後段・同3項)⑷ 提出書面(同規則44条の2第2項) ① 地図又は地図に準ずる書面 ② 所有者等特定不能土地等の所在地に至るまでの通常の経路及び方法を記載した図面 ③ 調査・評価の結果を記載した文書がある場合には,その文書⑸ 申立手数料 対象となる土地の筆数にかかわらず,1つの申立てにつき1,000円です(民事訴訟費用等に関する法律別表第1第16項)。⑹ 予納郵券 裁判所ごとに異なりますので,事前に各裁判所にお問い合わせください。⑺ 予納金 申立ての目的等によっても異なりますが,予納金が必要となる場合があります。 なお,購入予定者による申立てであって,申立てに際して土地の鑑定評価書の提出がある場合には,申立人に対して迅速に売却され,その売却代金から管理者報酬を捻出できる可能性があるので,予納金が不要とされることもあるでしょう。⑻ その他 特定不能土地等管理者が選任された場合,管理者の氏名・住所が登記されます。4 取得手続⑴ 売買により取得する場合 裁判所により選任された特定不能土地等管理者に対して,購入の申込みを行います。 特定不能土地等管理者は,売買契約書案をもとに,売却についての裁判所の許可を得ることになります。⑵ 時効取得する場合 裁判所により選任された特定不能土地等管理者に対して,取得時効を援用します。 特定不能土地等管理者との間で取得時効の成立について協議が整った場合には,特定不能土地等管理者と時効取得者との間で,当該時効取得者を所有者とする協議書を作成します。 協議が整わない場合には,特定不能土地等管理者を被告として,所有権確認訴訟を提起し,取得時効を援用します。なお,下記5のとおり,取得者を名義人とする表題登記及び所有権保存登記を行うため,所有権移転登記請求をする必要はありません(移転登記の場合に比べ,保存登記の場合の方が登録免許税は低額となるので,移転登記請求をする実益は通常ないと考えられます)。5 登記手続⑴ 登記手続の内容 所有者等特定不能土地を取得した場合には,当該取得者を登記名義人とする表題登記及び所有権保存登記をすることとなります(令和2年10月30日付法務省民二第796号通達)。⑵ 特有の提出書面等売買による取得の場合 ① 売買契約書 ② 特定不能土地等管理者の印鑑証明書(裁判所書記官発行のもの) ③ 売却許可の決定書時効取得の場合 ① 協議書 ② 特定不能土地等管理者の印鑑証明書(裁判所書記官発行のもの) *①②に代えて,所有権確認訴訟の勝訴判決書及び確定証明書⑶ 登録免許税の額 表題部所有者不明土地については,現に固定資産税を納入している者がいないため,固定資産税評価証明書を入手することができないことが多いでしょう。 そのため,法務局が作成する認定価格を基準に登録免許税の額が算定されることが多いかと思われます。