今、めざましテレビを見ていて、わっと思い出したんです。

 『長い散歩』での緒形拳さんとの出来事を。

 私、『復讐するは我にあり』とか『吉原炎上』とかとにかく打ちのめされるほど強烈に刺激的で大好きで、もちろんこの仕事をする前から憧れの俳優さんでした。

 だから『長い散歩』の記者会見や試写会、東京国際映画祭の舞台挨拶なので司会をした時にお仕事したのが最初で最後になったんですよね。

 初めてお会いして、控え室でご挨拶しようと席に近づいた時のこと覚えてる。

 「今回、司会を務めさせて頂きます、伊藤さとりです。緒形さんどうぞよろしくお願いします」

 ほぼ目を合わせず、表情を変えずに、小さく頷いて「はい」とだけ言われた。
 それでも怖いのとは違う、どこか優しい空気をまとっている方でした。


 司会泣かせな俳優さんで、質問して短いコメントで、奥田監督とお仕事してと聞いても「いい監督さんでしたよ」とか、子役の女の子の印象を聞くと「可愛いよね」だけで、それでも掘り下げて質問を更に投げかけるという状態だったんだよな。

 だけど、やっているうちに分かった。

 シャイな方で、嘘も言わない、根っからの役者さんなんだと。

 それで、まだ上手く喋れない子役の女の子に話しをふりながら、緒方さんに話しもふったりすると、言葉は少ないけれど表情を緩めて、「彼女は大物女優さんなんです」とか言って笑った。

 映画について質問してもそう長く答えてくれなかったけれどこのコメントは印象的でした。

 「奥田瑛二監督に演出されて作り上げ、完成した映画についてご自身でどう思いますか?」

 「~~~自分が出ている映画をそう褒められないけれど、これは良い映画です」みたいな。。。

 あの時は心の中で小さく「やった!」と思った。

 良い言葉を発してもらえて嬉しくて、本当に素直なコメントだったんですよね。

 奥田瑛二さんも気を使いながら尊敬している様が近くに居てもよく分かり、私も初日だけ日程が合わずに司会が出来なかったものの、それ以外の司会をさせて頂く度に静かに座っている緒形拳さんのそばに行っては挨拶しては心の中で「喋ってもらうぞ!」と使命感メラメラとリスペクトしていました。

 少ししかお会いできなかったけれど、やっぱり私の映画司会人生の中で、深くてクセのある印象を残した演技派名優でした。

 素晴らしい作品を世に残して頂いて、沢山好きな作品はあるものの、小さい頃にテレビで見た「吉原炎上」で遊郭に興味を持って、母親に怒られたっけ(笑)

 ご冥福をお祈りします。