子どもの「偏食」が心配! 「発達」に影響するって本当?
【概要】本記事では、子どもの偏食がどのように発達に関係するのかについて、国内外の研究データを交えて解説しています。偏食の定義や prevalence(有病率)の数値を示し、さらに偏食が心理面や身体的発育にどのような影響を与えるかを研究例とともに紹介します。最後に偏食を緩和するためのアプローチや家庭でできる工夫についても触れています。偏食とは子どもの成長過程において、特定の食べ物だけを好んだり、逆に特定の食べ物を強く拒否したりする状態は日常的によく見られます。一般的に「偏食」や「好き嫌い」と呼ばれますが、成長に伴って解消されることもあれば、長期化してしまうケースもあります。ここでいう偏食は、単に一時的な食べムラではなく、特定の食品群や食感、味を一貫して拒絶しがちな状態 を指します。子どもの偏食行動は、心理的要因や遺伝的要因、経験や学習など多面的な要素が絡み合って起こると考えられています。ただ、多少の偏食があっても大きな問題に至らずに成長する子どもも少なくありません。一方で、偏食が長期化すると、栄養バランスが崩れたり、食に対するネガティブなイメージが固定化されたりするリスクが指摘されることがあります。偏食の定義と統計データ偏食に関する定義は研究によって微妙に異なりますが、一般的には「食べられる食品の種類が著しく限られている」「特定の食感や味を過度に拒否する」「新しい食品への抵抗が強い」などの特徴が挙げられます。例えば、アメリカで行われた縦断研究 では、母親の報告によって3~11歳の間に一貫して特定の食品群を拒否し続けた子どもを「偏食傾向が強い」と定義し、その割合が約14%に上ることが示されています。出典: Mascola et al. (2010) “Picky eating during childhood: A longitudinal study to age 11 years.” Eating Behaviors, 11(4), 253–257. https://doi.org/10.1016/j.eatbeh.2010.05.006一方、イギリスやオーストラリアなど複数国の研究 をまとめたレビューでは、定義の違いや年齢層の差によって偏食傾向の報告が6~50%と幅広く報告されていることも明らかになっています。これは、研究ごとにどの程度「好き嫌い」を偏食と捉えるかの基準が異なるためです。出典: Dovey, T. M., Staples, P. A., Gibson, E. L., & Halford, J. C. G. (2008). Food neophobia and ‘picky/fussy’ eating in children: A review. Appetite, 50(2–3), 181–193. https://doi.org/10.1016/j.appet.2007.09.009日本において も、研究の対象年齢や親の認識差などによって数値は変動しますが、保育園・幼稚園児の約2割前後が「明らかに偏食がある」と把握されているというデータがあります。厚生労働省など公的機関の大規模調査では、公式に「偏食率」として数値を定義しているわけではありませんが、食育関連の報告書や学術論文の中で同程度の数値が散見されます。参考: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/発達への影響:国内外の研究結果子どもの偏食は、単に「食べられるものが少ない」だけでなく、身体的・心理的な発達に影響を及ぼす可能性があると指摘されています。以下に、主な影響を紹介します。3-1. 身体的な発育への影響偏食によって栄養素のバランスが著しく崩れると、鉄分やカルシウムなど 特定の栄養素が不足するリスクが高まります。そうした状況が慢性的に続けば、成長期における身長や体重の伸び、骨の形成などに負の影響が生じる可能性があります。しかし一方で、軽度から中程度の偏食であれば、全体的な成長曲線に大きな問題は見られない という研究結果もあります。たとえば、前述のMascolaら(2010)の研究では、偏食傾向がある子どもたちの平均的なBMIや身長の推移は、偏食でない子どもと比較して統計的に有意な大差が見られなかったとされています。ただし、鉄欠乏や亜鉛不足などのミクロ栄養素が不足する傾向はやや高かったと報告されています。3-2. 心理・社会的発達への影響偏食のある子どもは、新しい食材に対して強い不安や拒否感を示すことが多く、これを「食物新奇恐怖(Food Neophobia)」と呼ぶことがあります。食事の場での緊張やトラブルが増えると、家族のコミュニケーションに悪影響を及ぼし、子どもの自己肯定感や社会性の発達にも波及しかねないと懸念されています。実際に、偏食の程度が強い子ども ほど気分が不安定になりやすい、あるいは親子関係におけるストレスが高まるといった心理面での負担増加が海外の縦断研究で示唆されたケースもあります。出典: Jacobi, C., Agras, W. S., Bryson, S., & Hammer, L. D. (2003). Behavioral validation, precursors, and concomitants of picky eating in childhood. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 42(1), 76–84. https://doi.org/10.1097/00004583-200301000-00013偏食の原因と対策4-1. 偏食の原因偏食の原因は一つに特定できず、以下のように複数の要素が関与すると考えられています。 生まれつきの味覚特性: 苦味や酸味に対して敏感な子どもは特定の野菜や果物を受けつけにくい傾向がある。 学習や経験: 幼少期に苦手な食材を無理やり食べさせられた経験があると、嫌悪感が強まりやすい。逆に家族が楽しんで食べる姿を見せると、受容度が上がることも報告されている。 心理的要因: 食に対して不安が強い場合、新しい食品に挑戦することを避け、結果として偏食が固定化することがある。4-2. 対策・アプローチ偏食を改善・緩和するためには、子どもが食事に対してポジティブなイメージを持てるように配慮することが大切です。 無理強いをしない: 食べる量やスピードを親がコントロールしすぎると、子どもが食事に苦痛を感じる原因になる。 少量ずつのチャレンジ: 苦手な食材であっても、ほんの一口から始めるなどハードルを下げ、新しい食材に対する恐怖感を緩和する。 調理法の工夫: 野菜を刻んで他の食材に混ぜたり、調味を変えて食感や味をなじませたりすると、子どもの受容度が上がる。 家族のモデルリング: 親や兄弟が楽しんで食べている姿を見せることは、子どもが同じ食材を試すきっかけになる。また、医師や管理栄養士への相談も非常に有効です。栄養不足が懸念される場合や、食事に対する不安感が強い場合は、専門家が食事指導や心理的なアプローチを行うことで改善を促せるケースがあります。まとめ子どもの偏食は珍しいことではありませんが、長期的な視点で見ると__身体面だけでなく心理面、さらには家族関係__ に影響を及ぼす可能性があります。特に栄養バランスの乱れが続けば、健全な発育に支障が出るリスクは否定できません。一方で、偏食があっても発育曲線自体に大きな問題が見られない場合もあるため、子どもの健康状態や心理面を総合的に見極めることが重要です。大切なのは、「少しずつでも新しい食材に触れてみる」「家族が一緒に食事を楽しむ」といった__ポジティブな体験を積み重ねる__ ことです。もし、栄養面や心理面で心配なことがあれば、専門家への相談を検討するのも一つの手段です。偏食があるからといって、必ずしも重大な問題に直結するわけではありません。しかし、放置してしまうと取り返しにくくなるケースもあるため、食事の時間を快適にする工夫や環境づくりを意識していきたいものです。出典・参考文献: Mascola, A. J., Bryson, S. W., & Agras, W. S. (2010). “Picky eating during childhood: A longitudinal study to age 11 years.” Eating Behaviors, 11(4), 253–257. https://doi.org/10.1016/j.eatbeh.2010.05.006 Dovey, T. M., Staples, P. A., Gibson, E. L., & Halford, J. C. G. (2008). “Food neophobia and ‘picky/fussy’ eating in children: A review.” Appetite, 50(2–3), 181–193. https://doi.org/10.1016/j.appet.2007.09.009 Jacobi, C., Agras, W. S., Bryson, S., & Hammer, L. D. (2003). “Behavioral validation, precursors, and concomitants of picky eating in childhood.” Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 42(1), 76–84. https://doi.org/10.1097/00004583-200301000-00013 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/