ハモニカを吹くように、左右の手で両端をつかんでかぶりつく。下顎で一段ずつ、きれいに食べ尽くしたい。
ああだめだ。脇をキツく締めないと、自分の腕の重みで手が下がってきてしまう。
何としてでも、このハモニカ・スタイルで食べねばならない。この50年ほど、こうしてコイツにかぶりついてきたではないか。
漸く1本を食べ切る。甘くて美味い。右の手首から肘にかけてが痛む。この夏が最後か。
「もう一本ください」
気が付けば、こう叫んでいた。どこまでいけるか、こうなれば自分自身との、いや私とコイツとの半世紀を賭けた真剣勝負である。
うう、重い。今まで数え切れぬほど攻略してきたコイツのグラム数を、人生で初めて意識する。
右腕がダウン。左手は物をつかむことが苦手だが、根性はあるらしい。マイクのようにつかみ直し、残る粒々を攻略していく。
もう限界か。皿の上に倒れゆくマイク。私とコイツの、激闘は幕を閉じた。
「食後のお薬は飲みますか?」
ヘルパーさんの優しい声。
あとでにします、と辛うじて答えると、続けて私は小さくこう呟いた。
「ウェットティッシュ、ください」

そうだ。こんどは夜祭りの屋台で、焼いたのを買い食いしよう。汚れてもいい服を着て、口の周りを醤油色にペイントしながら。

2024年、夏の記録。