週末におこなわれた研究会の定例勉強会のテーマは,様々な方向へのリーチングでした.
前回の勉強会では,リーチングの構成要素として,注視と構えの形成について対象知覚の観点から共有したその続きです.
注視では,対象物と自己との関係において空間を構造化し,
構えではリーチングの最終過程に目的である課題(terminal movement)があります.
この目的となる課題は,対象と直接的に接触し,その接触抵抗の探索に基づいて操作の構えが調整されますから,それを予期的に調整することが全身反応における構えの形成に重要でした.
ここでおさえておきたいのは,
対象を捉えるということは,その対象物と自己との関係を定位することであり,
視知覚としては ”支持面との関係における相対的な全身運動” と “全身の相対的な身体各部位における運動” との両方を固有感覚と同時に抽出しているということです.
この対象を定位するという意味では,ケーラーの洞察実験でも同様です.
実験では,チンパンジーが情報にぶら下げられた手の届かないバナナをとるプロセスを観察しています.
上方にぶら下げられたバナナの対象(図)に対して,その知覚は地(地面や踏み台)との関係において成立しています.
対象(図)を知覚するということは,地としての環境が前提です.
チンパンジーは,バナナにまで手が届かないことを何度も飛びついては失敗し(失敗を通して知り),
今度は周りにある踏み台や棒をもて遊ぶようにたわむれながら親しんでいきます.
そして,そのチンパンジーはふとバナナをとるために踏み台にのって棒を使うことに気づき,バナナを手にすることに成功しました.
一度発見された棒の使用,いわゆる道具使用はすぐさまにスキルとして蓄積されていく,チンパンジーの洞察が生まれるまでのプロセスを観察した実験です.
ですから,対象との関係をとるという意味では,
対象知覚(地としての環境を前提とした図の知覚),そして棒をもて遊んだという操作知覚,対象と対象を結びつけながら操作スキルが循環されていくその場を体制化した場の知覚が段階的に知覚体験として行為を繋げたということです.
この対象知覚の観点から自己中心に対する側方,上方,下方,後方など様々な方向へのリーチングを日常課題のなかに組み込まれる行為として検討したいと考えています.
例えば,
側方なら正中から外側へ向かうバランス反応と正中交叉する動的かつ可動性が求められる自己へのリーチング,
支持面が視野から外れてしまう上方へのリーチング,
自己重心と視点の高さに対して断崖の底に向かう下方へのリーチングなどです.
そこには,空間に対して,高低差や奥行,空間の広がりと狭まり,移動運動における手がかりとなる情報源の不足した環境やかえって混乱を招きやすい外乱刺激が多い環境など,日常の中では様々な要因が絡み合ってきます.
これらの要因は,行為の質を低下させる可能性として散在しており,一連の動作過程を分断させてしまう要素です.
例えば,遠いところにあるものはより遠いところにあるものかのように振る舞ってしまったり,
高いところはより高く,低いところはより低くあるかのように態度と気持ちが偏ってしまうという意味です.
そのように対象との関係を捉えてしまうと,環境と自己の定位関係は現実と切り離されてしまいます.
環境の知覚は自己の知覚でもあります.
例えば,視覚は自己周囲にある情報を得るために機能しているわけではなく,同時に自己の動きについての情報となります.
ですから,視知覚の変化は,自己の移動運動(リーチング)を変容させる可能性があり,姿勢運動制御に影響を与えます(その逆も言えます).
系統発生的にも,霊長類は動きのなかで発生する視知覚情報と環境や対象の奥行などを捉える視線の方向や自己運動の方向,環境構造によって変化した知覚情報を利用し,移動する空間を拡大させてきました.
ですから,様々な方向へのリーチングでは,
行為に対する適切な身構え(リーチングの最後,いわゆる対象と接触しその接触抵抗に基づく操作過程にその課題の目的があり,そこで創発される探索的操作と全身反応),その予期的な調整をあらかじめ明確に姿勢・運動制御に繋げるように援助することが重要と考えます.
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