ですから、うちには、おいてないんですよ。軟球は、
店員のおねえちゃんは、何度も何度も繰り返し、半ば泣きそうになっています。そんな中、気持ちとは正反対の曲が店内を包み込む。

「あなたの願いを叶えます。キュッキュッキューキュッキュッキュー」

小太りなオッサンは、まくしたてます。

「全然客の願いかなえとらんやないかーーー!!
わしはこの前 軟球があるのみたんぞー中省 あんなー今時、どこの百円ショップにもあるど!!軟球」

。。。いやいや、そんな置いてないだろー軟球は。。百円ショップじゃないし。。

とか思ってたら、

「お前じゃ話にならん、店長呼べ!!」と怒鳴り、お姉ちゃんは、「は、はい。」とあたふた。。
キュッキュッキューキュッキュッキュー。

しばらくして、店長らしき眼鏡のいかにも頼りなさそうな人が現れ、さっきのお姉ちゃんと同じ事を繰り返し、ひら謝り。。
なんであやまってんだろーか。

よくわかんなかったが、おっさんが、「ほんま、嘘つかれて、心がもう、ほんま、あれだわ、ほんまに、どうにか責任とってもらわんと、ほんま あれだわ」

。。ほんまあれってなんなんやろーか、

と若干考えていたら、なにやら、店長が、こそこそ、そのオッサンに話かけて、オッサンが「まあ、嘘つき呼ばわりされたんやからなー、それくらいしてもらわんとなー」と 言い、買い物カゴの物をせっせとビニール袋に入れて、帰り間際、眼鏡店長に「なんかどなったりして悪かったなー。ねーちゃんにもよろしく言っておいてなー」と言い残し、満面の笑みで店を後にしました。

・・・・・・えーーー買い物タダーー!!そんなことで!!

んでっ 軟球は? 軟球は?

誰もが、そう思っていたはず。

眼鏡店長も、半泣きお姉ちゃんも、何事もなかったように、キュッキュッキューの歌と共に、レジにたっていた。

俺も眼鏡店長いるレジへ。

野菜餃子が一点、納豆が一点・・・・合計 735円でございます。

俺は、お金を払おうと思った時、もう一人の俺が、「言っちゃえよ!言っちゃいなよ。言いたいんだろ!」

その声に後押しされて言っちゃいました。

「あの、軟球って置いてなかったですか?」

眼鏡店長、ちょっと半笑いになり、

「ないです。」

俺も半笑いになり

「ですよねー。」

まだ少し肌寒い夜風に吹かれながら、キュッキュッキューキュッキュッキュー。

体だけではなく、心も寒くなりました。

キュッキュッキュー