筋ジストロフィーという病気を
ご存知だろうか。
指定難病113にも登録されている難病だ。
僕がまだお店を経営していた頃、お客さんの
1人の男性がその難病を発症してしまった。
彼には婚約者もいて、結婚間近での発症だった。
彼は26歳と若く、病気の進行が早かった。
歩くことが困難になり、車椅子での生活になり
腕をあげるのも辛いというふうになるまで
1年程で進行した。
婚約者の女性がお店にやって来て
彼からの伝言と近況を伝えてくれた。
彼は、延命を望まないという書類にサインしてしまった
彼女や、家族も反対したが彼の考えを聞いて
しょうがなく、彼の意見を尊重する形で承諾したそうだ。
彼が言った言葉・・・
「人工呼吸器や何本もの管を繋がれ、延命はしたくない
最期の時まで自分らしくありたい。
せめて残りの人生を彼女のために使いたい
この病気に奇跡は無い。残念だ。
だけど、僕の人生は奇跡で溢れてる。
今朝、目が覚めた。今日も生きてた。朝だ。
今日は彼女に会いに行く日だ。寝癖がついてなければいい
けどと鏡を見る。ついてない。自分では直せないから
よし、彼女に会いに行こう。家を出て
家から歩いて10分の公園に45分かけて辿り着く。
彼女が見えた。今日も生きて、彼女に会えた。
僕にとって、奇跡の連続だ。
今日も彼女に会えた。
そのことが、僕にとって奇跡なんだ。
来年も、その次の年もありのままの自分で
彼女と過ごしたい。
だから、延命はしない。」
その話を聞いて、僕は返す言葉も見つからなかった。
確かに、延命処置をすることで心臓を動かすことはできる
しかし、彼は彼女との残された時間を何よりも
最優先にしたのだ。
彼女は、話を終えるとずっと、泣いていた。
彼女が泣き終わるのを待って、僕は彼女に言葉をかけた
「僕は、妻を自死で亡くしました。
ある朝突然、永遠の別れを迎えてしまったんです。
でも、彼に残された時間は短いかも知れないけど
残りの時間をどう過ごすか、そして最期の時
あなたが手を握ってあげてさえいれば
彼も幸せなんじゃないでしょうか。
僕はそう思います。」と
彼女はまだ困惑していたけど、店を出る時の彼女は
とても強い目だった。
それから2年、彼は生きた。
彼の葬儀には参列させてもらった。
命の大切さを改めて教わったお礼と
闘病中の時の2人の幸せそうな写真を送ってくれた
お礼に、「ありがとう。」を言いたくて。
人はいつか必ず死ぬ。それが早いか遅いかの違いだ。
だけど、人生は一度しかない。
そのたった一度のチャンスをどう生きるか。
そのことを教えてくれた彼と、その彼女に感謝している。
その後、彼女は彼を亡くして、どうしようもない時
支えになってくれた男性と結婚した。
亡くなった彼の月命日には必ず仏壇に手を合わせてくれる
優しい男性だそうだ。
人は誰もが幸せになる権利がある、
ということも彼女は教えてくれた。
コロナで理不尽に命を落とす人が多い中
そんなカップルもいた、という話