数十年ぶり、本当に久しぶりに

 

生まれ育った地元の先輩と偶然再会した。

 

地元でもないこの街で再会というだけでも

 

驚きだが、もっと驚いたのがその先輩の

 

変わりようだった。

 

僕がまだ学生だった頃、その先輩は

 

治安が悪いということで有名な街の中でも

 

喧嘩が強く、でも仲間思いで周りから頼りにされ

 

人望もあり、「男らしい」という言葉は

 

この人のためにあるんじゃないかと

 

思うほどの人だった。

 

しかし、再会した時の先輩はまるで魂が抜けてしまった

 

かのように変わり果てていた。

 

思わず声を掛け、ベンチでコーヒーを飲みながら

 

先輩の話を聞いた。

 

高校を卒業した先輩は就職先で知り合った女性と

 

結婚し、子供も生まれたという。

 

ここまでならいい話で済んだのだが

 

実は奥さんには先輩とは違う、好きな人がいて

 

本当はその男と結婚したかったのだというのだ。

 

しかも、念願の子供が生まれてすぐ

 

仕事から帰ると、奥さんと子供がいなくなっていて

 

家はもぬけの殻だったらしい。

 

先輩には元々、両親がいなかった。

 

家庭を持つのが夢だった。

 

細やかでいい、人並みの幸せしか望んでいなかった

 

先輩に対して、奥さんは

 

「この子はあなたの子ではありません。さようなら」

 

雑に破られたメモ紙にそれだけ書いて

 

家庭を捨てて、「本当の好きな人」のもとへ

 

逃げたのだ。

 

誰よりも仲間思いで、誰よりも強かった先輩が

 

愛した人に裏切られたのだ。

 

 

それから先輩は地元を離れ、この街で

 

一人で生活しているという。

 

「他人など信用できない。信じたら裏切られる

 

家族だの、仲間だの、聞くだけで吐き気がする。」

 

そう言い残して、先輩は僕の出したコーヒーを

 

口をつける事なく去っていった。

 

どうして、どうして彼なんだ。

 

あんなにも強かった憧れの先輩を

 

ここまで追い込んだ『裏切り』という行為を

 

僕は心底恨んだ。