今日は前妻との結婚記念日

 

彼女が自死で亡くなって

 

僕は命日ばかり気にして

 

結婚記念日という大切な日を

 

これまで忘れていた。

 

彼女は僕が殺した。僕が救えなかった。

 

救急隊が来て、彼女を雑に扱うから

 

僕は救急車まで背負って運んだ。

 

冬の寒い朝だった。

 

だけど、背中に感じる彼女は

 

もっと冷たかった。

 

彼女が亡くなった日より

 

今日みたいな特別な日を

 

僕は覚えていたい。

 

命日なんかより、彼女が生まれた誕生日

 

結婚記念日、そういう日に

 

天国に報告したい。

 

「僕は生きてます。あなたが見れなかった

未来を僕が見てる。」と。

 

今日は大好きなマンガ倉庫にやって来た。

 

フィギュアやおもちゃ、漫画にゲーム

 

何でも置いてある夢のようなお店だ。

 

でも、初めて欲しいものがなかった。

 

これまで夢中になって集めていたフィギュア

 

前からずっと欲しかったモデルガン

 

何を見ても、欲しいと思えなかった。

 

欲しい物を見つけても手持ちが無くて買えない

 

そんな日は悔しい思いも何度もした。

 

でも、今日は悔しくもなかった。

 

悔しくないって、寂しいな。

 

僕は生まれつき手が大きい。

 

身長と比べると、随分と大きい。

 

バスケットボールが片手で掴めるくらい。

 

足も大きい。

 

小さな頃はこの大きな手はどんなものでも

 

握り締めることができる

 

この大きな足はどんな一歩でも

 

踏み出していける。

 

そう思っていた。

 

でも、現実は大人になればなる程

 

大人になるということってのは

 

自分の可能性の限界を知る

 

ということなんだなぁと感じた。

 

 

学生時代、バスケでの最後の試合で負けた時は

 

「いい試合だった。全てを出し切ったんだ。

 

後悔なんかあるはずがない」

 

そんなヤセ我慢をコートの隅に置いて去った。

 

今日また一つ、大切なものが指の間から

 

こぼれ落ちた。

 

 

 

毎週のように通っていた、この店も

 

もう来ることはないだろう。


 

今日も大切な場所を一つ無くした。

 

こんな思いをするのが「大人になる。」

 

という事なら、僕はずっと

 

子供のままでいたかった。