母が作る茗荷の酢漬け。
これが
大好きな私のために
母は毎年、夏の贈り物と一緒に送ってくれていた。
同居していたころ、
こういう、母の手作り品が届くたび
私はこっそり
全部1人で食べていた。
それは、独り占めしたいからじゃない。
もちろん大好きなんだけど、
私は、いくら好物でも
食べ物を独り占めしたいと思うことはない。
なぜ、隠して1人で食べていたか。
母が私のために作ったものを
義両親にダメ出しされるのを
聞きたくなかったから。
言わないかもしれない。
でももし言われたら、
黙って聞いていられる自信がなかった。
会いたくても会えない母が
私のために作ってくれて、
送ってくれているのに。
きっと毎日孫と一緒に暮らせてて
他の息子も娘もすぐ近所に住んでる人たちに
私の母の気持ちはわからない。
母は心配性で、よく私宛に小包を送ってくれた。
中は薬や栄養剤や
子どものお菓子や
別にどこでも買えるようなものだったりするけど
一つ一つ小さな手紙が付けられていて
私は毎回、
涙が出るほど嬉しかった。
それなのに、
中身を見て「しょーもない」と
冗談でも言って欲しくない言葉を
軽々と言われたらと…
悲しい想像しかできなくなってた。
歯に衣着せぬ性格から、言動を先読みしてね
食べていただかなくてけっこう。
そう勝手に思って、この茗荷も
私1人でいただいていました。
同居を解消して初めての夏。
母は、今年から別々に同じものを送るねと
海苔の佃煮やらゼリーやらの
お盆のお下がりと、この茗荷を送ってくれた。
義両親に何を送ったかは知らない。
茗荷も送ったと思う。
義両親は初めて食べる母の茗荷の酢漬けを
どう思ったか
もうどうでもいい
聞かなくていいし
それをどうしようが
義両親の勝手だから。
私は
誰に気兼ねすることなく
堂々とテーブルに置いて
日本酒とともに
いただいている。
これは、義両親に対して文句を言いたいわけじゃないのです

言われたわけじゃないから。
私が勝手に思い込んで、勝手にしてたことだから。
私自身が、そんな不安定な心理状態だったということです。
相手に合わせることばかりしていたら
相手の気持ちを察することがクセになって
嫌なことをされる、言われる、と
勝手に被害妄想して
自分で自分の首を絞めてました。
っていうお話。