「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎 2007-140 | 流石奇屋~書評の間

「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎 2007-140

お馴染み、読前感想なき読後感想

購入本、伊坂幸太郎氏「ゴールデンスランバー」読了しました。

今までの伊坂作品にはない「映画っぽさ」があります。
もちろん今までどおりの伊坂作品であったりもしますが。

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伊坂 幸太郎
ゴールデンスランバー
出版元
新潮社
初版刊行年月
2007/11
著者/編者
伊坂幸太郎
総評
25点/30点満点中
採点の詳細
ストーリ性:5点 
読了感:4点 
ぐいぐい:4点 
キャラ立ち:4点 
意外性:5点 
装丁:3点

あらすじ
冴えわたる伏線、印象深い会話、時間を操る構成力……すべての要素が最強の、伊坂小説の集大成!!仙台での凱旋パレード中、突如爆発が起こり、新首相が死亡した。同じ頃、元宅配ドライバーの青柳は、旧友に「大きな謀略に巻き込まれているから逃げろ」と促される。折しも現れた警官は、あっさりと拳銃を発砲した。どうやら、首相暗殺犯の濡れ衣を着せられているようだ。この巨大な陰謀から、果たして逃げ切ることはできるのか?<<新潮社より抜粋>>



がっつりエンターテイメント作品です。良くも悪くも「仙台で起こるハリウッド映画」です。

冤罪の物語といえば、そのまんまなのですが、その事件性にせよ、見え隠れする黒幕せよ、巨大過ぎるほど巨大であることが本作品のポイントです。

このシチュエーションでのテーマは、「勝てるはずのない相手にどのように戦いを挑むか?」。そして、読み手の意識は自然に「この物語の収束はどこに向かうのか?」という点に集中されていきます。

章立てにも工夫が見られます。

「第一部 事件のはじまり」、つづく「第二部 事件の視聴者」では、事件の傍観者たるべき登場人物(実は重要人物)が事件の起きた瞬間と続く逃走劇とその終焉(らしき瞬間)を俯瞰します。

物語はその後一気に20年後となり「第三部 事件から二十年後」。ここでは読み手は、この事件が20年後となっても「未解決」であることを知り、同時に不可解な事後について情報を得ます。

そして「第四部 事件」。本作品のメインコンテンツですが、ここで主人公の「逃げる男」青柳と、第一部に登場した樋口晴子の目線で事件が語られていきます。

最後に「第五部 事件から三ヶ月後」では、事件直後の物語が語られていき、物語に一つの収束が見られます。

これら「章立て」の並び一つとっても、伊坂氏が思うエンターテイメント作品への拘りが滲み出ていると感じました。

また、もはや伏線の張り方に関しては、芸術的とも呼べる伊坂作品なのですが、今回も気持ちよいくらいに綺麗にまとまります。例えば、物語の序盤から終盤あたりまで登場する「病院」での一幕は、登場人物の言葉や行動が、重なり合う・すれ違う・を繰り返し、物語を進めていきます。また、青柳や樋口がたびたび思い出す大学時代の思い出は、この逃亡劇において、とても重要な展開を推し進めてくれるものがあります。

このような「場の伏線」「過去からの伏線」を惜しげもなく使い切るあたりは、(おぉ、伊坂作品じゃん)と安心して思えるのです。そうそう、これだけは書いておきたいので、書きますが、伊坂作品には「伏線に無駄がない」のです。

これがなんとも心地よいのですね。

今までの伊坂作品にはない、ラスト展開だったりもしますが、無理やり大円団でなかったのが逆に救いかもしれません。

ちなみに、読了後に「第三部 事件から二十年後」を再読してもらうと、「あれ?森田??」と思ったりして、このあたりもなんともニクイ作品です。