「その日の前に」 重松清 2006-119 | 流石奇屋~書評の間

「その日の前に」 重松清 2006-119

2006年本屋大賞第5位の作品。
「その日のまえに」を読了しました。

「大事な人の死」をテーマにした極めて精度の高い連作短編集でした。

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重松 清
その日のまえに
出版元
文藝春秋
初版刊行年月
2005/08
著者/編者
重松清
総評
22点/30点満点中
採点の詳細
ストーリ性:5点 
読了感:4点 
ぐいぐい:4点 
キャラ立ち:3点 
意外性:3点 
装丁:3点

あらすじ
昨日までの暮らしが、明日からも続くはずだった。それを不意に断ち切る、愛するひとの死―。生と死と、幸せの意味を見つめる最新連作短編集。 <<Amazonより抜粋>>



7つの作品群。
ラストの3つは、表題作に加えて「その日」「その日のあとで」と、正統な連作となっており、その連作にリンクされるように前の4作品が用意されています。
きっちりリンクされているところは、伊坂作品に類似しているところがありますが、その前4作の「その後」が描かれているという点では、伊坂作品より、意味を持つリンクなのかもしれません。
ちなみに、ネット上にアップされている感想を見てみると「朝日のあたる家」だけが、リンクしていないようなことを仰っている方も多いようですが、しっかり登場人物の2人が「表札」(「その日のまえに」205頁)といった形で登場しております。
他の作品に比べれば、一番地味な登場なので見落としがちですが、一番救われている登場の仕方で個人的には一番気に入っています。

で、読み終えて、率直に思ったのは、「この作品は、もう一度、読み直す時が必ずくるだろう」ということでした。

このことは、私自身の個人的な現況に大きく関与します。
それは、私の周りの大事な人が、今現在、幸いにも皆健在であることから、このシチュエーションをきっちり飲み込めなかった、シンクロすることができなかったということです。
本書を読み進めるたびに、妻・両親・兄弟、それから親友、師・・・大事な人はたくさんいるけれど、その人たちを失うといった感覚自体を、否定している自分を見つけてしまいました。

例え不通になってしまっていても、生きてさえいれば、見えないところで支えてもらっているという自分の甘えのようなもの、そんなものを大きく感じることができました。

ですからわがままを言わせてもらえれば、本書の主人公達の気持ちに同調できる時に、もう一度読んでみたいと思ったのです。
そして、更なるわがままを言わせてもらえれば、なるべくそれは遠い未来にしてもらえないだろうかと、誰かに頼みたい気分なのです。

物語自体は、どの短編も、さすが重松氏といった構成と、心理描写でした。
そして、「自分の外側の世界のこと」と思えなくするような、筆致であったと思います。

その結果として、このような状況を、「真っ向から、拒否する自分」が明らかになったことは、大きな収穫と呼んでよいものかもしれません。