「空を見上げる古い歌を口ずさむ」 小路 幸也 | 流石奇屋~書評の間

「空を見上げる古い歌を口ずさむ」 小路 幸也

小路 幸也
空を見上げる古い歌を口ずさむ

いやいや個人的にちょっとした小路氏ブームです。
3冊目。相変わらずの語りかける文体。子供の頃を思い出すには十分の本書です。

「みんなの顔が“のっぺらぼう”に見えるっていうの。誰が誰なのかもわからなくなったって…」兄さんに、会わなきゃ。二十年前に、兄が言ったんだ。姿を消す前に。「いつかお前の周りで、誰かが“のっぺらぼう”を見るようになったら呼んでほしい」と。<<本帯より>>

第29回メフィスト賞受賞作です。どこか懐かしい牧歌的な町で起こる不可解な事件。
”のっぺらぼう”に見えてしまうということが何を意味しているのか、その謎を解くため、文章のほとんどが、20年間失踪していた主人公の兄からのカタカナの町で起こる、20年前の出来事の語りとなります。

広場や集まる場所に子供なりの名称をつけるところや、アダ名、スタンドバイミーばりの冒険、秘密基地など、子供の頃の時代背景について著者が深くそして慈愛を持って描く点は好感が持てます。
(あ~確かに、私の子供の頃も同じような雰囲気あったよな~)と思い、その思い出がオーバーラップしていくわけです

ミステリーでありながらもファンタジーとも呼べる本作品は、起きる事件そのものはシビアなものでありますが、包み込む雰囲気が先行し、どこか夢の世界といった感じです。

小路氏の別の作品で既読の「そこへ届くのは僕たちの声」 と同様に、「特別な力を持った者たち(主に子供)の戦い」が裏テーマにありますが、デビュー作ということもあって、やや力が入っているようでした。
このテーマをより洗練したのが、「そこへ届くのは僕たちの声」 だったりするかもしれません。

本作には続編(高く遠く空へ歌ううた)なるものがあるらしく、そちらも読んでみたいと思いました。