始まりのお話→ChainedMoons/PARADOX
#7
レギュラー番組収録のあるテレビ局に移動したおれたちは、楽屋でそれぞれ好きなことをしながら翔ちゃんの到着を待っている。
おれは手の中の携帯の、翔ちゃんからのメールを何度も何度も読み返していた。
『無事到着。まとめるべき資料が残ってるので汐留に寄る。
またスタジオで。
愛してる。』
ふふふ。ぶっきらぼぉ・・・
無事帰国した知らせが嬉しくて、ホッとして温かいキモチと、
せっかく帰って来たのに忙しそうだな、ってゆうのと、
『愛してる』なんて照れくさくて嬉しいけど期待より短かかった文面にちょっとだけ寂しいキモチになったのとでフクザツな心境。
・・・でも、もうちょっとで逢える。
なんだか落ち着かないキモチで、今度は送信ボックスに残る自分からの返信を見直す。
『お帰り、翔ちゃん!お疲れ様!資料大変だね、こっちはもう楽屋に来てるよ。
もうすぐ逢えるね。大好きだよ、翔ちゃん。 雅紀』
・・・お帰りなさい、の方がよかったかなぁ・・・ハートとかつけちゃったりして。
頑張ってね、って入れた方がよかったかなぁ・・・
みんなも待ってるよ~って、入れた方がよかったかなぁ・・・
あぁ~っ、ダメだ。落ち着かない。
ちょっと外の空気吸いたいかも・・・
楽屋の中のメンバーと、廊下にいたマネージャーに声をかけてから
エレベータホールの先の一番奥にある扉からテラスへと出る。
ほんの、車2台分くらいのスペースのテラスには3人掛けのベンチが2つ置いてあって
植込みの向こう側にパレットタウンと観覧車が見える。
外だけど禁煙のここにはこの季節来る人はそういなく、
「はぁ~っ、さみぃ!」
なんて言いながら冷えた空気を深呼吸でモヤモヤした胸に取り込み、
手前のベンチに腰を掛けてその夜景を独り占めしていた。
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