これまでのお話
【#1】【#2】【#3】【#4】「あっ、ううん・・・イヤじゃないけどぉ、」
コーヒーカップに唇を当てたまま、横目でチラリと見る雅紀。
・・・何ソレズルくね?スゲー可愛いんですけど。
「ケド?」
「なんか、こそばゆい、っつーの?くふふっ」
ほんのり頬を赤らめる雅紀を覗き込むように見つめる。
ココが公衆の面前じゃなければすぐにでもその唇に触れるのに。
その後頭部に手を掛け引き寄せ・・・触れたい唇・・・を、我慢して右手の指でいじっていたストローに唇を寄せながら脚を開いて右の膝で雅紀の左の脚に触れる。
グッ、と押すとクイッと押し返される脚。
コーヒーを飲みながら視線を合わせて、フッと微笑み合う。
カウンターテーブルの下の、秘めゴト。
*
*
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陽も落ちて、少し足を伸ばした帰り道。
ワイドショーで観た雅紀の記念のツリーをどうしてもこの目で直接観ておきたくて・・・
久しぶりに来た横浜。
「少し、歩こ?」
ここから見える景色が好きで、少し目的の場所から遠いけど使い慣れた駐車場へと車を停める。
この辺りは商業施設から離れていて、人もほとんど通らない。
人影が増えてしまう前に、雅紀の手を取る。
「わぁ・・・いつ来てもいいけど・・・、この季節はいつもよりキレイだね、しょぉちゃん・・・」
俺の手に引かれて、歩行をまるっきり俺に頼り切ったように水面の向こうに揺れる光に見惚れている雅紀。
いや・・・雅紀の方が・・・そのサラサラと風に靡(なび)く髪の輪郭を光に透かせ・・・濁りのない深い茶色の瞳は星を宿したようにキラキラと輝かせて・・・
「キレイだよ・・・」
人気(ひとけ)のない橋の上、繋いだ手をクイと引き寄せそっと背中から抱き締める。
右耳の後ろに鼻を埋(うず)めると、雅紀の柔らかな匂いが胸をくすぐり腰を甘く撫で上げる。
顔を上げて頬にキスを落とす。
雅紀が、ゆっくりとこっちに振り向いたから・・・リップでケアされてツヤのある唇に、吸い寄せられるように・・・
チュ・・・
チュッ・・・
「・・・ん、」
背後を通る車のエンジン音にハッとして離れる。
見つめ合って、吹き出した。
「ハハハハ!ヤッベ!」
「くふふふふっ!やばかった!」
「行こ?」
「うん、いこ!」
歩道が明るく照らし出されるまで夜の闇に紛れて手を繋ぎ歩き、大通りから建物に入るまでは外側の歩道を足早に歩いてショップが営業終了したフロアの連絡通路からその場所へ向かう。
「わ、スッゲ・・・あれかぁ・・・」
まだ何人か人がいたけれど、みんなその煌びやかなツリーに目を奪われて2人には気付かない。
雅紀主演の記念ツリー・・・
脳裏に、人には見せない努力を続ける雅紀の姿が思い出され、寒かった年明けのあの頃がリフレインして、胸の内側が、瞼の奥が、熱くなる・・・
キュ、と後ろから左手を握られてギュ、と握り返す。
「しょぉちゃんと見に来れて、嬉しいよ。」
「うん・・・俺も、今同じコト想ってた。」
誰かに見つけられる前に、そっとその場を離れる。
外に出ると、さっきより風が強くなっていた。
「寒いね、帰ろう?しょぉちゃん。」
帰って、ゆっくり抱きしめたいよ。