また例のごとく驚愕のラスト・・とか
脅威のピアノテクとかいう言葉が踊る
まず
この映画のラストは驚愕でも、
意外でも
なんでもない
なぜなら
そこに至る心情が丁寧に描かれているので、
驚愕でもなんでもない
さらに
そこで
行われる行為は、
意味があるので脅威でもなんでもない
こちとら
山下洋輔のピアノを見ているので
どんなテクでも驚くにあたらない
この映画のテーマは
「わたしの音楽を奏でること」
この映画を観るにあたって、
ひとつだけ知識があるといいのは
このひとのことです
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
カラヤンの前にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者を務め、20世紀前半を代表する指揮者のひとりとされている。
1933年 ベルリン国立歌劇場でワーグナーの「マイスタージンガー」を指揮した際、首相ヒトラーと握手している写真を撮影される。
9月15日、ヘルマン・ゲーリングの指令により、プロイセン枢密顧問官に就任。同年11月15日には帝国音楽院副総裁に就任。
1934年 ヒンデミット事件によりナチス政府と対立。
12月5日、プロイセン枢密顧問官および帝国音楽院副総裁を辞任。
1936年 ニューヨーク・フィルの次期音楽監督にトスカニーニから指名されるが、
ナチスの妨害により破談。
1938年 ドイツのオーストリア併合後、ナチスによるウィーン・フィル解散を阻止。
1939年 第二次世界大戦が勃発するがドイツに残る。国内のユダヤ人音楽家を庇護。
1945年 2月 ウィーン・フィルの定期演奏会後にスイスへ亡命
(彼を嫌うナチス高官ハインリヒ・ヒムラーに逮捕命令を出されていた)。
5月 戦時中のナチ協力を疑われ、演奏禁止処分を受ける
このフルトヴェングラーに将来を期待されていたのが
この映画の老ピアニスト、トラウデ・クリューガー。
ここからは、
ネタバレになります。
僕は基本的には
天才の物語が好きです
そこには、
普通の人間が至れない
孤高の世界があります
それはけして
凡人、秀才には行けない場所であり
どんなに
映画で描こうとしても
所詮は
疑似の世界です
松本大洋の「ピンポン」が
すごいのは
秀才、ドラゴンが、
人知をを越えた努力によって
天才、ペコの世界に至ったところを
描いたから
この映画「4分間のピアニスト」は
天才ふたりの物語
時代によって
歴史によって
自分の感性を封印されてしまったピアニスト
トラウデ・クリューガー
いまなら
許される、それどころか
芸術家として謳歌できる同性愛という性嗜好によって
個性を、感性を封印されてしまった
そんなトラウデがであった若き天才ピアニスト、
ジェニー・フォン・レーベンは叫ぶ
「わたしの音楽を奏でたい」
しかし
それをトラウデは認めようとしない
自分の感性、殻に閉じ込めようとする
だからこその
ジェニーの感情の爆発であり
暴力でもある
開放されたいという
感情が、
ラストに至って一気に爆発する
酒を飲んだトラウデが
その音楽を聴いて
微笑みとも
苦笑ともいえない表情をする
その表情から読み取る意味は
人それぞれだと思う。
僕は
そこに
天才同志がたどり着いた
至福の音楽世界を読み取った。
迫害、暴力、偏見で
封殺された
わたしの音楽を取り戻した
そこには
けして
悲劇はなく
たとえ肉体は、
拘束されようとも
心は無限に広がっている。
わたしの音楽はけして拘束されない
ラストに少女の
嘲笑は、
満足に満ち、
その笑顔の意味をわかっているのは
ウイスキーグラス片手の
トラウデのみなのだ