どはー・・・。ここしばらくの間、M嬢は大変目まぐるしい日々を送っていた。

日経四紙を熟読しながらもCNNニュースを聴き、大根の桂むきをしている一方で俳句を2,3句捻り出す程
スーパー器用な私ではあるが、ここ最近は珍しく鼻息が荒れていた。
あ、世界を股にかける仕事人としては、もちろんビジネスはむにゃむにゃ・・・いやバリバリやっとるのだが、
ここ数日の目まぐるしさの要因はメンズ関係ですわよ、お・く・さ・ま。

まず、わけのわからんストーカー男に悩まされた。
元々私と同じ部署の派遣さんが大学時代の男友達と呑んでいるというので、その場に合流したのがきっかけだ。
その場はピースフルに解散したのだが、数日後なぜかその男友達から私の携帯にメール着信があった。
どうやら、その派遣さんから私の連絡先を聞き出したようなのだ。そして飯に誘われた。
「おい!勝手に個人情報教えるなよ」と内心は憤ったが同じ職場で働く年上の派遣さんの顔も立てねばならん。

なおその男は「婚約中の彼女がいる」と言っており、私も予め「男いるで」とゴーマニズム宣言をかましていた。
そんな事情もあり、「ま、一回くらい」と珍しく慈悲心を見せて、会社帰りに食事の約束をした。
しかも、用心深い私は別の女友達も同席させてサシの場にはしなかった。

そのたった一度の食事から、毎日、しかも数分おきにそいつからメールが手裏剣のごとくぴゅんぴゅん届いた。
最初は普通に「今何している?」「明日空いている?」という類のライトな内容なのだが、
私が「先約がある」などの断りメールを入れたり、または30分ほど返事をしないと途端に内容が豹変するのだ。

「誰と呑んでるんだ?」「まさかコンパか?」などの数年熟成の彼氏気取りのメールが続々と届く。
うんざりしてガン無視していると「俺たち最後だな」「一言だけ声を聞きたい」「俺にも我慢の限界がある」
など完全に妄想超特急なメールが届くのだ。明らかに尋常じゃない。そんなメール攻撃が半月位続いた。

ま。ウットーしいながらも、別にこの手合いの「ヤバい国の男」はそう珍しくない。
通常であれば私も「けっ」と虫ケラ扱いを決め込み、殺虫剤一発でエレガントに対処するのだが、
実はもう一件私をダウナー気分にする事件がこの時期に並行して起こっていたのだ。

私の勤める会社のグループには情報誌の出版を行っている部門がある。
その情報誌のWEBサイトリニューアルにあたり、イメージキャラクターで男性モデルを探すことになった。

TVCMなどもじゃかじゃか打っている情報誌なので、イメージキャラクターは非常に重要だ。
しかもブライダル関係の特集なので、クセがなく爽やかな美男子を選ぶ必要がある。
私はモデル事務所から送られてくる宣材ファイルのメンズを血眼になって数十人見つめていた。

その中で、まさにイメージにぴったりの男子を一人発見した。それがA君(28歳)だ。
彼のルックスは和とアジアンが程よくブレンドされており韓流ブームの昨今いかにもウケが良さそうだ。
ボディーサイズもタキシードを着こなせる理想的なデータが掲載されていた。

早速モデル事務所に連絡を取ると彼はここ数年シンガポールやバンコクなど海外を拠点として活動しているが、
ちょうど先月舞台の仕事のために日本に帰国したばかりだと言う。

そんなラッキーが続き、とんとん拍子で契約を済ませ、先日都内近郊の某高原で撮影が行われた。
スチールの経験が浅いとは言え、海外でコレクションなどもこなしたことのある彼は、
衣装の素材や見せ方をよく理解しており、想定以上にスムーズに撮影は進んだ。
帰国直後ゆえなのか、モデル特有の「スレた」感じも無くスタッフと和やかに接しているのも好印象だった。

さて、早めに撮影も終了したため我々は代官山の小さなダーツバーを貸し切って、ささやかな打ち上げを行った。
話をしても、A君はなかなか博識で会話のテンポも良く、何より朴訥とした好青年だった。
偶然にも私の大学の後輩であることも判明し、私と彼は泥酔しながらもすっかり意気投合した。
そして「また呑もう」と石原軍団並の固い契りを交わして、私達は携帯の番号を交換した。

「久々の上玉やで~」とウキウキしながら連絡を待ったが、私の携帯は鳴らなかった。しーーーん。
「はぁ、その場のノリだったんかな」としょぼくれ嬢になっている時に、私は自分の重大な過ちに気がついた。

彼と番号を交換する時、私は彼の携帯に直接自分の番号を打ち、ワンコール自分宛に着信を残したはずだ。
が、改めてその晩の自分の携帯の着信履歴を見ると、知らない番号からの履歴は残っていない。
つまり、私は酔っ払って自分の番号を打ち間違え、しかもその場で自分の携帯を確認しなかったため、
そのミスにしばらくの間全く気がついていなかったのだ。

「が、がび~ん」超ベタなショックの言葉が浮かんだ。我ながら何たる失態。痛恨の極み。
彼との接点はその一度きり。仕事で取引のあるモデル事務所に個人の番号を聞くなんて怪しすぎる。ムリムリ。
その事実に辿り付いた時はさすがに自分の体内に流れるアルコールのメコン川を呪ったもんだ。

極上のイケメンを失い、ストーカーのどチンピラにつきまとわれる日々。冴えない秋にも程がある。
アダム・スミスばりの「見えざる手」で自らのロマンスの需給関係を操作してきた私の強運もこれまでか・・・。

が、そこを何とかするのが世界のM嬢。ほい、立ち直り早いで~。

まずはストーカー男対策。これは私の父親に扮したダミ声の男の先輩に仲介してもらい
「Mは病気で入院した」とデッチあげてもらった挙句、彼からのメールや電話は全て着信拒否設定。
これにてカス男は永遠に夢の島行き。ちーん。せめて「いい夢見ろよ、あばよ!」である。

一方、モデル君対応。私は自分の番号を無我の境地で見つめ、ひらめきの神が下りてくるのを待った。
つまり、「最も間違えそうな」番号にコールを試みようとしたのだ。確率論的には全く期待できない。
電話に出たオバちゃんに「ここ数日Aという人からM宛ての間違い電話が入ってませんか?」とダメモトで聞くと、
「ああ、ありましたよ」と、あっさり肝臓から手が出るほど欲した答を差し出すではないか。

嗚呼!奇跡のような一発ヒット。神様はまだ私を見捨ててなかった。先月、献血しといて良かったあああ。
結局エンジェルオバちゃんの着信履歴から彼の番号をゲッツでき、私たちは無事連絡を取ることができた。

我ながら不死鳥。シンデレラマンも仰天の形勢逆転。
さ、この秋も「嵐を呼ぶ女」の名に恥じないオレ様のキラースマイルに磨きをかけるぜ。