事件の続報だ。
「昨日のことは忘れた」というハンフリー・ボガード並にハードボイルドなオレ様だが
さすがに先週の記事で大騒ぎしすぎてCNNの取材依頼まできたため、その後の経過をお伝えしよう。

■M嬢危機一髪!モト彼が同僚に!? ~どっきりわくわくオフィス生活の巻♪:其の弐~ だ。
→前回の事件の概要はコチラhttp://blogs.yahoo.co.jp/sasami921/19384285.html

あれから私は比叡山に篭り、ナイル川をクロールで渡り、南極をふんどし一丁で闊歩してみたりしながら
M君の入社を阻止する策略を考え続けた。厳しい苦行の旅だった。

しかしそうこうしているうちに彼はあれよあれよと最終面接まで進んでしまっていた。
・・・私としたことがとんだ戦略ミスだ。

ちなみに彼の最終面接までの過程では、こんなことが起こった。
とある晩。
会議を終えた私はエレベーターホールの前を必殺キャットウォークで歩いていた。
と、そこで前方の男子トイレから歩いて来る見慣れた長身の男のシルエットを発見した。

じゃ、じゃん♪じゃ、じゃん♪じゃじゃじゃじゃ♪ 悪寒がM嬢の体中を走る。オカンでもお燗でもない。
↑あ、ちなみにこれ映画『ジョーズ』のテーマ曲ね。いやー、文章ってもどかしい。

見慣れた姿ではあるが、このオフィスでその姿を見ることはとてつもなく違和感があった。
例えてみると、

「肉のハナマサでトム・クルーズを見かける(しかも白髪ネギを手に取っている)」

「首相官邸で猫ひろしがでんぐり返しをしている(しかも背後では池乃めだかが猫マネしてる)」

それ位の衝撃と戦慄だ。

「あー、M嬢さんだ」そう無邪気に言って廊下をこちらに向って歩くM君。どうやらこれから面接らしい。

馬場の栄通りでラベルの怪しいウィスキーを朝まで呑んだり、あるいはM嬢の自宅で二人で料理を作ったり。
そんな場面が通常だった男が、私の戦場でもある会社にいるのはやはり受け入れ難い。

「どアホ!来んな!落ちてまええー」そう小学生のガキのように絶叫して私は廊下を小走りで後戻りした。

入社してきた以上、別部署に配属になるとはいえ仕事上で接点も出てくるだろう。

やはり彼の前で「M君、次回のミーティングの議題についてですけど」的な会話をする気まずさは拭えない。
得意のメガネをきりりと上げる動作もこっ恥ずかしくて繰り出せまい。あ、私メガネしてへんけど。

しかも彼の志望している営業部には実は私とムフフなコトがあったような男もいないわけじゃない。

「仕事も恋もライバル♪そ~れ、追いつけ、追い越せ♪
って、おーい!北方謙三がコイーバを吹かしながらそんなヌルい小説書くかっちゅーねん!

さて。彼はここ数ヶ月の転職活動中では私の会社以外にも数社に応募をしており、
その都度、人材ビジネスに詳しい私に対し子犬のようにアドバイスを求めてきた。
しかし、
今回私の会社に応募した時は、彼は一切私へ相談をしてこなかった。経過の報告のみだったのである。

思い返せば8年前の大学4年の頃。
同じ大学・同じゼミだった私たちは一緒に汗かきベソかき氷河期時代のなか就職活動をしていた。

私の会社は彼も志望していたのだが、彼だけが二次面接あたりで「ご縁がない」という結果になっていたのだ。
そして私は今の会社に入社し、彼はまったく別業界の志望度が高いとは言えない会社に入社した。

彼は彼なりに今回のこの行動には背景や葛藤があったであろうし、それゆえの気概もあるのだろう。


最終面接の日。私は人事にいる仲のいい後輩にこっそりと彼の面接時間を聞きだしていた。
その面接の15分ほど前。彼の携帯にメールを入れてみた。

 「M君さ、今どこにいるの?」
 「会社の下の中庭。30分前からここにいて手のひらに“人”の字を書き続けているよ」
 「大丈夫?私、降りていこうか?」
 「いや、来なくていい。M嬢さんは俺が成功するように祈ってて」

大学2年のゼミの面接で初めて出会った時から30歳になる今でも、
彼は私のことを苗字にさん付けで律儀に呼び続けている。恋人時代もその呼び方は変ることはなかった。

私はオフィスの窓からこっそりと中庭を見下ろしてみた。
なるほど冬の寒空の下、煙草をふかす見慣れたM君の姿があった。

私が10年間見続けたシルエットは落ち着かない様子で「私の庭」をうろついていた。


・友情は瞬間が咲かせる花であり、そして時間が実らせる果実である。

ドイツの劇作家アウグスト・フォン・コッツェブーはこう言っている。

私とM君の友情は果実と言えるだろうか・・・。
それならば彼の成功を祈ってやるのも友情の証ではなかろうか・・・。

私はデスクに戻り、PCに向って作りかけの企画書を作成しはじめた。
彼の緊張が伝播したのか、心なしか私の手のひらは汗ばんでいた。


・・・後日(最終面接の約2日後)。結果が出た。







M君は落ちていた。

私の「どきどきわくわくオフィス生活♪」は幸い実現に至ることはなかったのだ。
これからも私とM君は違う道を歩みながら友情という果実を育てて行くことになるのだろう。

しかし、長い人生、生きていればまたどこかで、また違う形で彼と交わることがあるかもしれない。
望む、望まずに関わらずだ。

自分の選んだ友を、男を、ちゃんと応援できる器のデカい人間にならにゃアカンな。


※いやー、しかしホっとした。ビビったっちゅーねん、ショーミのはなし。