一日だけの園長 | 何もない明日

何もない明日

朗読人の独り言

photo_editor_1489219648152.jpg



停電の中、少しの暖を取る為乗り込んだ車の
ラジオからの声と大粒の雪を思い出す。
近くのスーパーでは店頭販売が始まるらしい。
母も父も弱っている。
心も身体も。
これから車を降りてマンションの9階まで登るのだ。
エレベーターは止まっている。
一歩一歩、階段で。



「私が行って来る。」
口を付いて出た言葉。
前年12月、山形に戻ったばかりの私は
父とも母ともうまくいかなくて
喧嘩ばかりで
申し訳ないと心で思うばかりで
だからこんな時こそ
少しでも役に立ちたくて



スーパーの店頭ではおにぎりやパン等
すぐ食べられる物や飲み物の他に
ろうそくや乾電池が販売されていた。
自分が何を買ったのかは覚えていない。
三人分の食べ物と飲み物。
ろうそくも買ったような気がする。
どんどん集まってくる人々の顔。
一様に不安気な。
はっきり覚えているのはそれだけ。
私たちの脳には喜びや悲しみを計る絶対的な尺度はなく
多くは文脈に頼っているんだって、
ヤフーニュースに書いてあった。
だとしたらあの時のみんなの顔は
文脈を失った顔、
だったのかもしれない。



2017年3月11日、
そんな事を思い出しながら浅草に向かった。
一回こっきりの為に夜なべして作った
三人分のテキストと
人数分のたいむてーぶると
八分割の黒画用紙
転換と終園時に流してもらうCD
マスキングテープ
エトセトラエトセトラ
を、詰め込んだ軽いようで重たい紙袋を右手に。
左手には祈りを。
なんて書いちゃったりして。



セットリストも写真も、ここには載せません。
二度とない夜を、一緒に過ごしてくれたGOKUさん
幽霊会社みちづれ田中社長
鍵盤まるこさん
助っ人ドラマーさん
ZINC楽満さん、オーナーさん
ご来園くださったみなさま



ありがとうございました。
幸せでした。
身体中で祈れて、
幸せでした。



載せない、
とか言って一枚だけ。
GOKUさんが撮ってくれた、
リハーサル中の園長です。
今はもう、笹田です。
ただの笹田美紀です。