(場面)
一辺2m程度の四角い台が舞台中央に配置されている。
招き猫の置物が一つ置かれている。
寒い日の風の音がする。
猫(猫A)が台の周りを、石塀の上を歩いているかのように歩いてくる。
目線は中央の招き猫に向いている。
猫A「上出来だよ。」
招き猫「そうですか?」
招き猫は体をよじりながら
招き猫「長谷川さん、まだ尻尾がふわふわしています」
猫A「ん?」
招き猫「ちょっと見てみてもらってもいいですか」
猫A「いいよー」
猫A、招き猫の背後に回り込んで
猫A「どれどれ」
招き猫「尻尾どうですか」
猫A「あー」
招き猫「どうですか」
猫A「あー、毛がちょろっと出てるかな」
招き猫「くっそう、毛かあ」
猫A「毛―」
招き猫、猫の姿(猫B)に変身する。
猫Aは舞台の端に、猫Bは中心の位置。
猫B「毛出てましたか」
猫A「毛―。むちゃくちゃモフモフしてたよ」
猫B「毛・・・」
猫A「どんまい」
猫B「毛、本当に難しいです。」
猫A「最難関ポイントだからね」
猫B「僕このままでいけるんですかね」
猫A「なんとかなるさ」
猫B「でも不安で」
猫A「安心しろ、僕もできない」
猫B「あ、知ってます」
寒い風が吹く
猫B「もう日も少ないですし、そろそろ完成させないとなあ」
猫A「まじめだな。」
猫B「そりゃ真面目になりますよ。」
猫A「なんで?」
猫B「なんでって、」
猫B、遠くの民家を指さして
猫B「みんなに見られるんですよ。僕の招き猫。佐藤様も、鈴木様も、伊藤にも、高橋にも、藤田にも、みんなに。」
猫A「そうだな。」
猫B「町中の猫が来て、イタチも狸もカラスもスズメも青大将もハクビシンも、なぜかネズミまで来て、みるんですよ」
猫A「大集合だ」
猫B「大観衆です」
猫A「テンション上がるな」
猫B「そんななかですよ、僕は招き猫をするんです。僕の招き猫は、先客が万来するようにニマニマしてて、右手は大きく上がり、愛らしい肉球で『こっちにおいでよー♡』と招いているんです。」
猫A「おー、すでに万客が億来している様が見えるよ。俺も入ろう(店に入る仕草)」
猫B「でも僕の招き猫を後ろから見てみてください」
猫A「ん?後ろ?」
猫A、猫Bの背後に回り込む
猫B「観衆の目線は僕の頭部から下部へと移動していきます」
猫A「ふむふむ裏側までよくできている。すばらしい、こりゃ合格、」
猫B「と、思いきや」
猫A「おや?おやおやおや?こりゃ毛だ(笑)。招き猫なのに、尻尾の先に毛が(笑)」
猫B「こんなの恥ずかしいったらないですよ。」
猫A「でも後ろなんて見えないだろ」
猫B「いいですか長谷川さん、大観衆ですよ、大観衆。最前列なんてすぐ埋まります。あふれた奴だって、なんでもいいから見ようとするじゃないですか。」
猫A「上野のパンダ見てるやつらもそんな感じだよなー。こうやって、柵の隙間から見ようとして、肩車なりおんぶなりして、最近はケータイに棒付けて伸ばしたりして」
猫B「(途中で遮って)僕のしっぽを見た奴はいうんですよ。毛だ!こいつ毛だしてる!って。会場は次第に『毛』コールで埋もれます。『毛―だ!毛―だ!毛―だ!』」
猫A「盛り上がるな」
猫B「あがっちゃだめです。佐藤様も見てるんですよ。」
猫A「佐藤様甘いから大丈夫だよ」
猫B「甘くてもだめです」
猫A「なんで?」
猫B「・・・少しは成長したところ見せたいですから」
猫A「そうか。」
猫B「はい。そりゃ、まあ」
寒い風の音がする
猫A「そういえばさあ」
猫B「はい」
寒い風の音がする
猫A「寒くない?」
猫B「寒いです」
猫A「帰ろうよ」
猫B「・・・」
猫A「帰らない?」
猫B「もうちょっと練習します(寒そう)」
猫A「・・・おう」
猫B「はい(寒そう)」
猫A「・・・大丈夫?」
猫B「・・・」
灯油販売の音声が聞こえる「ねーこはこたつでまるくなるー」
猫A「ああいってるけど」
猫B「いってますね」
猫A「・・・え、どうする?」
猫B「えーと」
猫A「おう」
猫B「もう少し」
猫A「・おう」
猫B「練習し」
猫A「・・おう」
猫B「ます」
猫A「・・・おう」
猫B「長谷川さんも見ててくれませんか」
灯油販売の音声が遠ざかる。
猫A「いいぜ☆(寒い)」
猫B「ありがとうございます☆(寒い)」
猫B、招き猫に変身する。
猫A、招き猫を見ながら歩き回る。
めっっちゃくちゃ寒い風が吹く。
猫A・B「ハックション」
招き猫の尻尾に毛が生える。
猫A「帰ろう」
猫B「帰りましょう」
(おわり)
2025年1月18日作成
