命つないだトラ Ⅲ
ひどい歯肉炎と口内炎、のどにある腫瘍のせいで、食べ物がスムーズに
食べれないボクのため、お母さんは子猫用の缶詰、スープ、ちゅーる
などをたくさん食べさせてくれた。そのおかげで、ガリガリに痩せ
こけていたボクは、まるまると太ってきた。
お家にいる猫たちの中で、ボクだけが特別に美味しい食べ物だった。
だから、いつも他の猫たちがボクが食べているのをうらやましそうに
見ていた。ボクが食べ物を残したら、争って食べつくしてくれる。
寒い時は、ホットカーペットの上でいつも寝ていた。暑い時は、28度に
設定したクーラのきいた部屋で過ごした。体の弱いボクのため、
お母さんはいつも一生懸命気を付けてくれた。
ボクがいつも苦しそうに食べるので、あっちこっちの動物病院に
連れて行った。どの獣医さんもボクの口を見るなり、「ウワー、
これは酷い歯肉炎だ。口の中が真っ赤に腫れあがっている。」と驚く。
抜歯をしてもあまり効果がないと言われてしまった。しかたなく、
痛み止めと口内炎のお薬で、どうにか食べられるようにするしか方法は
ないらしい。ある獣医さんが「亡くなる時は、苦しみますよ。」
と、なにげなく言ったひと言が、お母さんの心にいつまでも残って
不安にさせた。
ボクは、飼い猫の中でも一番手がかかって、お金もかかったけど、
「トラを保護して本当に良かった。そんな酷い口内炎で、またゴミ
あさりしなければならないと考えただけでもぞぉーとする。」と言って
大切に可愛がってくれた。
お父さんはお刺身が大好きで、よく夕食に出てくる。お父さんの椅子の
下で座って待っていると、お父さんが口で細かく噛み切ったお刺身を
手のひらにのせてボクにくれる。夕食のたびにボクがお刺身を欲しがる
ので、お母さんはボクのためにお刺身を買ってきてくれるようになった。
それからはお母さんはお刺身を食べなくなった。
ボクはいつもよだれを流していて、もだえ苦しみながら食べて、前足で
顔や首を触って食べ物でベタベタに汚してしまう。黒く汚れてしまう
ボクをよくお風呂に入れて、体を綺麗にシャンプーしてくれた。
毎日が幸せで夢のような日々を過ごしていたけれど、お家に来てから
3年くらいたった2019年3月頃から、ボクの身体は徐々に弱っていった。大好きなサーモンの刺身も食べれなくなっていった。お母さんは、ボクが
食欲がなくなってきて水をよく飲むようになったことに気付いていた。
しかし、薬も水も飲ませられないボクに治療は難しいと思い、それよりも
なによりもいつも食べるごとにもだえ苦しまなければならないボクが
可哀想で、早く楽にしてあげたいといつも祈ってくれていたんだ。

