今年最後の日、来年を迎える瞬間は起きていたいと思う。
シン君は「特に何かあるわけでもないだろう」って言うんだけど起きてるのよね。
素直にニューイヤーの瞬間を楽しみたいって言えばいいのにね。
本当そういうところ、可愛いんだから。
なんて言うとご機嫌斜めになるから言わないけど、シン君眉間にしわが寄っていたから私ってばニヤニヤしてたんだと思う。
見たかった映画とか、作りかけの服の仕上げとか、今年やり残していたことでなんとなく時間は過ぎていく。
映画が終わったタイミングで来年まで一時間を切っていた。
「ちょっとなにか食べたいな~」
「晩にあれだけ食べておいて?」
確かにスペシャルな夕ご飯を満足するまで堪能したけれど・・・
「起きて活動しているとエネルギーを使うからお腹はすくでしょう?」
こっそりと溜め込んでいたお菓子と、とっておきのお酒を見せると悪い気はしない顔を見せた。
シン君の好みくらいちゃーんと分かっているんですからね。
「ありがとう今年、よろしくね新年、パーティーね」
「そのままだな」
「あら、分かりやすいのが一番よ」
何か難しそうな外国語でも言ってきそうなシン君の口にお菓子を入れて塞いでみると、お返しに同じように口に入れられてしまう。
もう一個をお互い入れるのに牽制しあって、子供みたいなじゃれ合いなんだけどそんなことがすごく楽しかった。
「今年一年の反省でもしちゃう?」
シン君は反省することなんてないっていうような顔しているんだけど。
私としては反省してほしいことはあるんですからね。
「休みの日にもちゃんと寝癖は直してよ、だらしないんだから」
素敵なシン君の独り占めが最高なのに、寝癖皇子なんて最悪なんだから。
「そう言うお前だって荷物は置いたままするだろう?あれはだらしない」
少し前の私達だったらこのままお互いの不満を積み重ねて喧嘩しちゃうんだけどね。
「あー、それは無意識、うっかり。じゃあ、寝癖は私が直すから、シン君は荷物を見つけたら声かけて」
「それならできる、か・・・」
今はお互い引くタイミングが分かってきているような気がする。
気まずくなってしまう時間ってすごく寂しくて嫌なことが分かったからかな。
ちょっとだけ勇気を出して歩み寄ると、案外簡単に分かりあえたりしてしまう。
出会った頃に比べたら、落ち着いてきた私達。
もしかしたらあの頃に比べたら好きって気持ちが穏やかになってしまっているかもしれない。
でも、こうして手を重ねれば何も言わずに握ってくれるのは心地いいと思う。
「他に今年を振り返ってなにかある?」
「今年か・・・公務的には充実していただろうけど、個人としては特に何かできたって感じはしなかったな」
「それは分かるわ」
いろんな所へ行って、いろんな人に出会って確かに充実した時間は過ごしていたけど、私の時間ってどれくらいあったのかなって思う。
じっくり自分のやりたいこと、取り組めなかったなぁ。
「来年もこんな感じなんだろうな」
ここ数年はこんな感じの繰り返し。
シン君の言うように一年が同じように過ぎて、一年一年歳を取って気づいたら・・・・
「うわぁ。おばあちゃんになっちゃう!」
私の言葉にシン君が声を出して笑い出した。
「お前の一年ってどれだけだよ」
「その繰り返しであっという間に過ぎていくってことよ」
忙しいのは分かっていたけど、本当に忙しいんだから。
「前は自分のことが出来ないことが嫌だと思う気持ちが強かったけど、最近は自分しかできないことをしているって思うときもあるよ」
静かにそう話すシン君をみて昔立場にもがいていた姿を思い出す。
あの頃は雰囲気が尖ってツンツンしてたよね。
あれはあれでかっこよかったけど・・・
「大人になったのねぇ」
よしよしって感じに頭を撫でてあげた。
「お前に言われるのはなんだか嫌だな」
「褒めてるのに」
今の穏やかな感じもいいのよね。
それってつまり・・・
私は結論にたどり着いてシン君の首に手を回した。
「今年というか、その前からずっと、来年もその先もずっとずっと、私はシン君が大好きなのよ」
私の気持ちを伝えると、受け止めるように体に手を回してくれる。
「本当、お前のそういうところは敵わないと思うよ」
分かりにくいシン君の「大好き」が分かるのはきっと私だけなんだろうな。
視線を向けた時計は既に新年を迎えていて・・・
きっと今年も私達はこんなふうに色々なことを迎えていくのだろうなと思う。
ありがとう去年、よろしくね今年。