こちらに当社が掲載されました! 岸上教授、わざわざ登米市にお越しいただきありがとうございました。
<内容>
多様な業種・業態・事業展開による一般小売の展開
1 株式会社佐利の概要
一株式会社佐利の取り組み一
岸上光克(和歌山大学)
株式会社佐利は1949年に創業した。2026年現在の年商は数十億円に達しており、その大半が食肉関連事業である。特筆すべきは、同社の近年の急成長と、背景にある柔軟な多角化戦略である。もともと同社は食肉卸売業を主軸としつつ、先代まではLPガスや灯油といった燃料販売事業が売上の大半を占めていた。近年では、食肉小売や外食事業、さらには EC事業への積極的な進出を図り、現在の地方都市における食肉小売としての地位を確立している。従業員は約130名を擁し、地域に不可欠な雇用創出の場ともなっている。
■図1 株式会社佐利の取り組み概要 (※資料内の円形フロー図のテキスト化)
【上部:調達 (Procurement)】 ・提携農家・市場からの「一頭買い」 ・仙台牛・志波姫ポーク・内臓仕入れ
【中央:加工・製造 (Processing Hub)】 ・本社工場 & 東松島工場 ・カッティング・味付け・OEM
【下部(出口戦略)】 ・卸売 (Wholesale): 地元飲食店・学校給食(ベース収益) ・小売 (Retail): 直営店「フレッシュミート佐利」(ブランド発信) ・外食 (Dining): 焼肉・丼専門店(端材・内臓の活用) ・EC/納税 (Digital): 全国展開(高付加価値品)
【外周矢印】 ・在庫の柔軟な融通 (Total Optimization)
資料:同社ヒアリング等を参考に作成
2 本事例の意義
日本の食肉小売業界は大きな転換期にある。長期化する物価高騰を背景とした消費者の生活防衛意識の高まりにより、牛肉から比較的安価な豚肉・鶏肉へのシフトが進む一方で、専門性を活かした「高付加価値化」への二極化が加速している。そのような状況のもと、消費者は「どうせ買うなら質の良いものを少量だけ専門家から買いたい」という心理から、対面販売を行う精肉店へ回帰する傾向も見られる。また、共働き世帯の増加に応え、コロッケや唐揚げといった「中食」と呼ばれる惣菜の販売を強化する店が増えた。一方で、スーパーとの差別化を図るため、高級ブランド和牛のみを扱うなど「高付加価値化」に特化する動きや、オンラインショップやSNSを活用した「デジタル化」も加速している。
このような市場環境において、宮城県登米市に本拠を置く株式会社佐利は、創業から70年を超える歴史の中で培った「目利き」と「技術」を軸に、卸売・小売・外食・EC、さらにはエネルギー事業まで多様な業種・業態・事業を展開するとともに、地域密着を軸に地域外への販売も展開するという、今後の一般小売のあり方を示している。
3 取組の内容と成果
①取扱商品
同社は、「仙台牛(近年では、登米産仙台牛)」、「志波姫ポーク」を中心として、鶏肉や羊肉、馬肉など多様な精肉とともに、その加工品も取り扱っている。
仙台牛は、宮城県が誇るブランド牛であり、特に登米市はその約4割を担う主産地となっている。同社では「登米産仙台牛」を重点的に扱い、部位ごとに仕入れる柔軟な対応も行っている。志波姫ポークは、栗原市のブランド豚であり、徹底した衛生管理のもとで育てられた SPF豚を農場から直接仕入れている。その他、鮮度抜群のホルモンなども取り扱っており、豚をみると、県北と畜場から豚内臓を一頭買いし、自社工場で熟練スタッフが手作業で処理することで、臭みのない新鮮なホルモンを提供している。
■表1 株式会社佐利の主な取り扱い商品とその特徴
・仙台牛:宮城県が誇る最高ランク (A5・B5)の黒毛和種。脂肪と赤身のバランスが絶妙で、上質な食味が特徴。 ・志波姫ポーク:徹底した衛生管理のもとで育てられたブランド豚。豚特有の臭みがなく、きめ細かく柔らかい肉質が魅力。 ・豚生ホルモン:と畜場から直接仕入れ、熟練スタッフが1頭ずつ手作業で丁寧に処理。鮮度と臭みのなさが自慢の逸品。
資料:同社ヒアリングより筆者作成
②バリューチェーンの概要
次に、図2でバリューチェーン (フードチェーン)を確認する。
牛肉については、かつての「仙台牛」から、より地域ブランドを強調した「登米産仙台牛」へのシフトを鮮明にしており、部位ごとの購入によりロスを抑制している。豚肉については、宮城県流通公社でと畜された個体を購入しており、月30頭程度を仕入れている。特に「志波姫ポーク」は1社からの仕入れであり、メスのみを厳選している。鶏肉は全農経由、馬肉は東北産、さらに希少な県内産羊(月1頭程度) まで幅広く扱っている。
また、加工については、集中加工体制をとっており、各店舗が部位ごとに肉を仕入れる一方で、加工負荷の高い「牛タン」については一度本社工場に集約して加工を行い、各拠点へ融通する効率的なシステムを構築している。
■図2 株式会社佐利のフードチェーン (※資料内図解のテキスト化)
【入力】生産者/市場 ・大手卸業者/地域の生産者
【中核】株式会社佐利 (HUB) ・本社工場・加工センター ・一頭買い/自社加工/完全利用
【出力】 A. 直営小売 (Retail): 中江店など B. 外食事業 (Dining): 焼肉・海たろう C. 地域インフラ (Public):学校給食 D. 全国展開 (EC): ふるさと納税
資料:同社ヒアリング等を参考に作成
③多角化経営の特徴
同社は、単なる精肉店にとどまらず、「食肉卸売事業:飲食店や学校給食への原料供給、と畜場での請負業務」、「精肉小売事業:直営店舗「フレッシュミート佐利」等の運営」、「外食事業:焼肉店「仙台焼肉センター」や丼専門店「海たろう」の運営」、「EC・ふるさと納税事業:牛タンを中心としたオンライン販売」、「エネルギー事業 (燃料部): LPガス・灯油の販売」など多角化経営を実現している。
小売事業をみると、「フレッシュミート佐利」などの直営店は、地域住民にとって単なる販売店ではなく、「肉の専門家」として厚い信頼を寄せられる存在となっている。お客様の要望に応えて最適な部位を提案し、その場でカットする対面販売の価値を大切にしながら、店内調理の惣菜といった「中食」の充実で現代のニーズにも応えている。具体的には、店内調理のコロッケや唐揚げ、味付け済みの焼肉セットなど、利便性の高い商品である。また、同店の売上の60~70%は市内の飲食店への卸売が占めており、同店は小売店の顔を持つ一方、卸業の機能も有している。また、近年では、地域住民の需要に対応して、総菜にも力を入れている。
卸売事業をみると、牛肉は大手卸企業約5社から、豚肉は県の流通公社から仕入れるなど、安定した供給網を確立している。これにより、高い鮮度と品質を維持している。仕入れた肉は自社の工場で加工され、市内の飲食店や学校給食にも供給されており、同社が地域の食を支える重要なインフラであることを示している。
飲食店事業をみると、「(卸)仙台焼肉センター」や丼専門店「海たろう」といった店舗も経営している。これは、自社で仕入れた肉の「最高の食べ方」を提案する、事業の出口戦略であり、卸売直営だからこそ実現できる「希少部位の提供」と「高いコストパフォーマンス」が最大の武器となっている。特に、鮮度が命のホルモンを加工から数時間で提供できる仕組みは、他社にはない圧倒的な強みとなっている。この飲食店事業は、順風満帆だったわけではない。丼専門店「海たろう」は、もともと焼肉店として開業したが、厳しい経営が続いた。しかし、そこで諦めるのではなく、市場を見極めて丼専門店へと業態転換し、現在に至る。
これら事業は、それぞれ独立しているわけではなく、1つの店舗で4事業を連携させることがポイントとなっている。そのモデルケースとなった店舗が工場直売所である東松島工場であり、「卸・小売・飲食店・ふるさと納税」の機能を一体化させ、その成功モデルを他の拠点へと展開することを模索している。
④地域外への展開
以上みてきたように、地域密着型の取り組みにみえるが、その一方で、同地域は全国同様に人口減少が進んでいる。地域密着型だけでは、事業(経営)の維持・発展は難しい。そこで、全国への販路拡大を目指し、EC・ふるさと納税などにも取り組んでいる。近年急増している事業が ECサイトでの売上であり、特に、牛タンは売れ筋である。ふるさと納税では、約80ものアイテムを展開し、行政やプラットフォーム (さとふる等)と頻繁に協議を行いながら、既存商品の提供ではなく「売れる専用商品」の開発に注力している。
■図3 同社の地域外への販売戦略の特徴 (※資料内図解のテキスト化)
【戦略】マーケットイン型の開発 ・「既存品を売る」のではなく、「売れる商品を開発する」 ・行政やプラットフォームと連携し、価格帯・ニーズに合わせた商品設計
【実績データ】 ・SKU数: 約80アイテム ・No.1 Seller: 牛タン (EC売上の最大シェア) ・Impact: 近年の売上急増の主要因
【Operations】 本社工場と中江店の冷蔵設備を活用。登米・仙台間は自社物流でコスト最適化
資料:同社ヒアリング等を参考に作成
さらに、仙台営業所を開設し、都市部の需要を確捉え、商品供給を行っている。登米市と仙台市は自社物流、東京方面は他社を利用するなど、距離とコストに応じた柔軟な物流網を敷いている。
⑤地域貢献事業
最後に、同社は食肉事業だけではなく、エネルギー事業を通じて地域の生活基盤を支えている。エネルギー事業の意義をみると、冬季の寒さが厳しい東北において、燃料供給は「住」のインフラとして不可欠である。食とエネルギーの両面で地域を支えることで、盤石な信頼関係を築いている。また、社会福祉法人が主催する子ども食堂への協賛など、食を通じた社会貢献活動にも積極である。
4 まとめ
同社は、創業から現在に至るまで、時代の変化を敏感に捉えながら、近年では、燃料事業から食肉事業へと主軸を変化させている。そして、卸売・小売・飲食・EC事業等の多様な業種・業態・事業展開を行っている。
単なる「お肉屋さん(一般小売)」ではなく、近年の食肉小売市場の動向を踏まえた柔軟な対応を行っている。例えば、共働き世帯の増加に伴い、単なる素材販売だけでなく、味付け肉や少量パック、調理提案をセットにした販売を強化していること、伝統的な対面販売の良さを継承しつつ、SNSやECを活用した情報発信を行っていること、生産者のこだわりや産地の物語を伝える「ストーリー性のある販売」を重視し、スーパーとの差別化を図っていること、仕入れ価格やエネルギーコストの上昇に対し、廃棄ロスを抑えながら利益率を向上させる取り組みを実践していること、などである。
同社の多様な業種・業態・事業の展開は、不透明な経済状況下においても、伝統的な地域密着型の小売店の特徴を活かしつつ、現代的なデジタル戦略を融合させている。このような取り組みは、人口減少下の地方都市における食肉小売の存続に向けた一例と言える。
注記 1) 詳細は、株式会社佐利のホームページ (http://www.gyutan-sari.jp/) を参照
参考資料 1) 農林水産省畜産局『畜産・酪農をめぐる情勢』令和8年1月



