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ショーウィンドーの内側からは
映画のフィルムのように景色が見える
道を挟んだ向こう側には地下鉄の出入口があり
早朝から深夜まで
多くの人々が
出入りを繰り返している
彼女をはじめて見たのはいつだったろうか
煙るように
雨が降っていた夏の早朝
徹夜明けにコーヒーを飲みながら
明るくなり始めた空を
ウィンドー越しに眺めていた
ふと
鮮烈な気配が目の端を捉え
ほの暗い世界に
赤い光がたなびいた
彼女はビニール傘の下でたばこに火をつけ
真っ赤なくちびるで
口付けていた
白いシャツにタイトなジーンズ
ハイヒール
細い身体を支えるピンヒ ール
ちらりとのぞいたソールは鮮烈なレッド
彼女には
ほかには何もなく
靴だけが
唯一のアクセサリーであるかのように
鮮烈な印象を残した
ほの暗い雨の日に
ときどき彼女は現われる
真っ赤なソールのハイヒールを
唯一つのアクセサリーとして

