次の日10時前に武田さんが迎えに来た。ガードを兼ねて家に来ているので、母や都さんと、玄関で時間調整をしている。

余り早く出過ぎてもいけないようで10時に成ると車に乗り込み出発。


「今日はどちらに向かって頂けるのですか?」

飯盛山の山上の自然歩道の駐車所にご案内するように伺っていますが」

「あらっ!山登りでしょうか?一寸お洋服を間違ってしまったようですね、今更戻れませんね?」

「特に何もお聞きしていませんので、今のお召し物で大丈夫かと思います」


「じゃ、是で行きましょう」既に車は走っているので、戻ってとまで言うつもりは無かったが、山上のレストランなら山歩きの恰好で無くても問題は無い、が、何とも不思議な所でお名前も解らない方とお会いするのは一寸不安な気持ちに成る。

「武田さんは、菊花の御用が終わるまで待っていて下さるの?」タクシーを呼べば来て下さる所だが、もしかしたら、さっさと御用を終わらせて、戻れるのかと、確認して安心したかった。

「いいえ、お送りしたら、お家に戻るよう言い使っています。」

「そう、有難う」是で決まり、どうやら山の中に放っておかれるらしい。


 家からだと、幾ら安全運転で走ってもも20分も有れば、着いてしまう。

国道163号線から飯盛山方面「アイアイランド」の看板を見ながら右折、スポーツクラブの施設の間を縫って、一番奥の駐車場に車を入れる、平日とあって余り車の数は多くは無い。

 「まだ、お車が見えませんので暫く中でお待ち下さい、外は暑いですから」武田さんはそう言ってくれたが、菊花は、

「おいでに成る車のナンバーを教えて下されば、少し日陰でお待ちしても良いわ」と尋ねたが、武田さんはガードマンだと言うのを忘れていた。決して女性一人を山の中に残して、戻る事は無いだろう、増して自分が警備を言い使っている人なら尚更だ。


「もう少し、お待ち下さい外は蚊や虫も多いでしょうから」何とも女性の弱みを良くご存じで、まさか蚊にかまれた腕で初めての方に握手を求めると言うのはいささか、抵抗がある。

「そうね、それじゃ暫く車で待つわ、お約束は何時?」

「お時間のお約束はないのです、お家から出発した時にその旨ご連絡を入れて有ります、と言いましても10時出発は決まっていましたので、同じ様な時間にご出発されるのだと思います」


車で待つと言う事なのでしょうか?

「じゃ、もう直ぐおいでに成るでしょう、あちらは菊花をご存じなのでしょう?大丈夫、蚊にかまれた位ではめげないのもご存じでしょう、やっぱり、少し散歩をしましょう、武田さんは車においでになって、お見えになったら、お帰りになれば良いわ、此処から見える所に居るから、良いでしょう?」

 

 怒った訳では無い、怒るほど相手を知らないのだから、そうでは無い、無限に待つのが、異和感が有って、それなら、菊花の自然な動きの中に現れてくれる方が、待つと言う嫌な感覚が残らなくて気持ち良く迎える事が出来ると思う。


待て、と言われて、車の中でじっと待っていると気持ち良く迎える自信が無い。

「其れでは、此処でお待ちしますので、お気を付けて」武田さんも車から出て、エンジンはかけっぱなしで日陰に寄って立っている。