母が父に報告を終わり、菊花は、さきに手伝ってもらって、荷物を片づけた。

「菊花様お茶をお入れしますので、居間にお持ちします」とさきが降りて行く。

菊花は、自分の婚礼準備をしている感覚は余りなかった。


何故か江姉さまの御準備をしている時の方が、わくわくして、御荷物を見て回るのが楽しかった。とても暑くて大変だったけれど、選ぶ楽しみがあって、御買物をするのは楽しかった。


菊花は自分の好きな物を選ぶ事が出来ない、幾つか候補を選んで頂いて、最終は菊花が決めてもいいのだけれど、余り力が入らないと言うか、どれでもそちらの都合で選んで頂いても良いよと言う気持ち。


力が入らない理由が、お顔も知らない方に嫁ぐなら、揃えるお荷物にも愛情を添える訳ではないので、自分から率先して選ぶ気に成らないだけか、もしかしたら、こんな考えは、恐ろしい気もするし、誰にも御話をする訳には行かないが、自分の心の奥底に何か詰まっているのでは無いかと気に成っている。


洋服を着替えて、階下に降りて行くと既に母は居間でお茶を飲んでいた、菊花に遅れて、都さんも降りて来られた。

「今日の可笑しな車に見覚えは無い?」母が何気なさそうに聞く。

菊花も都さんも全く覚えは無かった、父に連絡をしたら、直ぐ帰るとの事だが、実際には、何も事故等があった訳ではないし、気にする事は無いように思うが


父が帰ってくると言うのはやはり父も大事だと思っているのだろう。


父が取りあえず顔を見て安心したかったと帰ってきて、白井様からもご連絡があったとの事で、大変心配していた。

江姉さまも付いて来たかったらしいが、皆出払って留守番が居なくなるので、店番に残ったらしい。

後ほど、白井様がお見えになるらしい。


父はもう一度会社に戻らなければならないが早めに帰ってくると、急いで出かけた。

「お客様がお見えになるのなら、先にお風呂を済ませて置きましょうか、もしかしたら、今日は時間遅くなるかもしれないわ、都さん、静に声を掛けて来て頂戴」と都さんが出て行くと。

「菊花さん、何かご心配があるのではない?」と母が心配顔で聞いて来る。

「心配事ですか?」

「ええ、何かご心配事があるのではないかと、このご結婚はお気に召さない?」

「いいえ、お母様気にいらない等とそんな事はございません、只、お顔も知らない方なので、御買物に行っても、どんなものを買えば良いのか見当も出来なくて、実際気のりしていないのは確かなのですが」


「そうね、でもねお顔を見ないでご結婚するような事が無いのではないのよ、そんな時には、親が本当に良い御話だと思って、御話を進めるのですもの、ご心配はいらないと思うわ」

「勿論、お父様がご尽力頂いているのは分かっていますもの、本当にお父様にお任せして、問題は無いです、ご心配を掛けてしまいました」

「それならば良いわ、もしどうしてもご心配なら、もう一度お父様にお尋ねして見ようかと思ったのだけれど、大丈夫ね?」

「大丈夫です、進めて下さい」


母はやはり母なのだ、多分お顔を見ていないからと言うのは本当は信じていらっしゃらないのでしょう、だけど、それでも菊花が嫌と言えば御断りをして下さる覚悟でいて下さったのではないだろうか。胸の中から出て来る事は出来ない思いに。けれど、是は菊花でさえ、此処数日に何か変な気持と気付いた事なので、母にしても様子が変かなと思った位なのだろう。


菊花は先にお風呂に入る事にした。


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