「菊花様、お客様がお見えでございます」さきの呼ぶ声で、我に返った。

スカートを払い慌てて返事をする。

「今行くわ!」

庭から裏口を回り、手を洗ってから玄関先に出て行くと、白井様が立っていらっしゃる。今夜お見えになるとは伺っていたのだが、もうそんな時間?横の時計を見ると、5時を回っている。


「本日、おいで下さると父から伺っています。どうぞ、お上がり下さい。」と言っては見たが、応接間はまだ、クーラーが入って居ないかもしれない。

今夜お客様がお見えになるのは皆知っているので、一時間程前には冷やして置くのだが、こんなに早いと思わなかったのだ。


白井様は

「先程、社長にお電話しましたら、もうお戻りになるとの事でしたので、私も直接此方に廻らせていただきました、よろしかったらお庭を見せて頂けますか?」と松の枝が気になる様子。


さきに、後で応接間に冷たい飲み物の準備をするように言いつけ、白井様に着いて庭に出る。

「此方のお宅はこの辺りでは珍しく鉄筋の建物ですね?」

「ええ、とても古いのですが」


瓦造りの古屋が多い地域に鉄筋の2階建ての作りの白い建物で、家の前には駐車スペースとして、砂利が入れて有り門扉から駐車スペースの横を真直ぐセメントで舗装をして奥の裏庭まで続く桜や楓、ツツジやアジサイの花木が植えられている。


その先に入ると、階上は中二階の応接間と予備質、納屋状に成ったトンネルのスペースを通り、裏庭に出ると正面に大きな松の木の枝が真一文字に横に伸びていて、その枝には支柱が立てられてある。

コンクリートの駐車スペースに支柱が立っているので、残念ながら見た目は良い物では無いが松の幹と同じ位の太さの枝なので、支柱が無いと支え切れないのだ。


そして、この松の枝の先の庭の右手に、先程菊花が涼んでいた泉の湧き出る築山がある。

白井様は松の木を廻り込んで裏の敷地の境辺りを覗きこんでいる、塀を張り巡らして有るし、後ろの家の敷地からは身の丈ほど高い位置に庭があるので、裏は見えないだろう。


「この水は湧水ですか?」

「祖父の自慢の泉です」水量は雨に影響を受けるので、余り地下の深い位置からの流れでは無いかもしれないが、その割に、水の切れた事は無いので何処か大きな水脈とつながりがあるのかもしれない。


その泉の右手はお隣の駐車スペースになっていて此方は頭上ぐらいの位置に駐車場がある。その気になれば向こうから降りては来られるかもしれないが、築山の最上部分は生駒石の大きな石を据えてあり、植えられている木は小さい木が多い。


築山から降りて来られた白井様は松の木の左手を御覧に成っている

此方は、今は風が吹き抜けて行っているが、大きな洗濯物を干すスペースで実際は父の会社の事務所には置けないような大きい立て看板や、時期的な入れ替え用の品物を置いてある。

駐車場側は出入り口は無いが、その突き当りにはドアがあり、窓が有り何故かこのドアにはかぎが掛かっている。

驚いた事に白井様はこの納屋にもお入りに成り、鍵を開けて建物の後ろを覗きこんでいる。


 菊花は単純に松の木をご案内するだけとは思ってはいなかったが、やはり、セキュリティのチェックではないだろうか?

 その後納屋の左手の裏口を御覧になり、その部分から2階の菊花達の部屋の有る部分を確認され、もう一度表玄関の方に廻られた、車のでは入り口とは別の門扉のを包むようにバラの花の枝が伸びている。


正面の築山の生駒石は男の方4人程で包めるか?上に見えている部分はとても大きい。

そして、マジックミラーに成った大きな窓には白井様と菊花が立って歩く姿が映っている

この家の大きな特徴のこのマジックミラー初めて入ってこられた方はきっとびっくりされる。ご自分が映っているのだが、誰か人が居ると勘違いされる方がいらっしゃるのだ。


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