「さあさあ、皆入っておいで、いやいや、遠慮などするな、
とき、とき、こっち来んか」
村の長老に呼ばれ
「若い者を集めて、夕方皆で屋敷に来い」と言われて、
大急ぎで,ときや為吉、よっしゃん、を呼びにやり、たまたま遊びに来た、雪ん子と狸腹の伝介等、総勢14、5人で長老の家に着いたのはそろそろ、日もくれる頃、日暮れの前に食事を済ませ、ねぐらに戻るまでの僅かな時間に、
野原で駆けっこをして、遊んでいたのだ。
「楽にし、楽にな」と長老に言われて、其々が藪影を選んで、身を寄せる。
「いやいや、わざわざ、来てもろて、済まんな」
慌てて、長老も腰を落とすと、話し始める。
「今日寄ってもろたんは、皆も承知のように、明後日に二番目娘の柳(やなぎ)が、隣村の風(ふう)の所に嫁入りをするんやが、明日、隣村から、花嫁を向かえに来る事に成っている。」
長老の二番目の娘の柳さんはとっても綺麗なうりざね顔のスタイルの良いお嬢さんで、雷は遠くで歩くのを見かけては、追いかけるのだが何時も長老の、言い付けで、兄貴の金(こん)が付いて回り、どうも、声を掛ける事もないまま、先月、隣村に嫁入りすると聞かされ、心を痛めていたのだ。
「今回の嫁入りは、前々からの隣村との縄張り争いの件で、なんとか争い事が無くなるように、其々年頃の子がいてるさかい、嫁入りさして、親戚関係になったら、争いが収まるんやないかと、あっちの、村長とも話おうて、決めたんやが、後から聞いたっこっちゃが、風ちゅう息子は一寸女癖が悪いちゅう話で、それなら、この話は無かった事にしたい」
「ええ、内(うち)知ってるで、風は内緒で子供おるで、隣村のりきやんの姉さん、この春赤ちゃん生まれたけど、父親の名絶対言わんて、りきやんとこのおやじさん怒ってたらしいけど、風が足しげく通ってたのをりきやんのおかん知って居て、風の子やろて、言うてた」
「雪ん子!お前そんな大それたこと、確かめもせんで言うたらあかん!」
長老はっ珍しく大きな声を上げたが、雪ん子は
「でも、内見たもん、風と姉ちゃんと噤んでるとこ」空気を察したが、雪ん子の声が尻切れトンボで小さく消えた。
14,5人の若者の声が一斉に雪ん子に飛んでくる。
「あほ!」
「ばか!」
「まぬけ!」雪ん子は小さく丸まって、狸腹の伝介の後ろに隠れた。
「そうかそうか、知ってるもんも居たんやな」
「長老、ごめんなさい」雪ん子が小さく謝ると。
「いや、言いにくい事やしな、こっちもちゃんと調べた訳や無いが、噂を聞いて、どうにかせんならんて、今日皆に集まってもろたんやし、気にせんでええ!」
長老は腹を決めたのか、
「事が決まったんなら、皆も分かってるとは思うが、話合いで、治まらんかもしれん、で、一寸作戦練らんならん、それと、雪ん子!今から行って、りきやんと姉ちゃん連れてこれるか?」
「うん、隣同士やねん、頼んで来る」
「悪いな、何も言わんで、わしが頼みが有るて、言うてな、暗う成ると行かんさかい、狸腹の伝介、雪ん子と一緒に行ったり」
口軽な雪ん子と狸腹の伝介が出掛けた後、風を懲らしめる作戦と、その後のもしかしたら一戦を交え縄張りを確保する方法の意見を出し合った。
りきやんと姉ちゃんを連れて、雪ん子達が帰って来て、明日の作戦が伝えられ、姉ちゃんは心配顔をしていたが、風の子を産んだ事が皆に知れていたので、それならと、協力を承知した。
次ページへ 沙羅より