「こんにちは!お家を探しているって?」
友達に話した言葉を聞きこみ
知り合いの不動産屋さんから
お電話が入った
「どんな感じ?」
商売をしているが
その日やっとかっとの生活
子供の大学入試の御金を工面するのに
銀行の借り入れもままならず
入学が決まるまでには
家を売って御金を工面しておかなければならない
なので
どんな家でも良いから
敷金が少なく
家賃の少ない家を希望
じゃ3軒ほど案内出来るから
何時が良い?
年中無休の
休みなし
家族揃って見に行く暇は無い
昼間の忙しい時間は
パートを雇うほどなので
余裕はない
比較的ゆとりのある
夕方の時間に自分一人で見に行く事にした
資料を3軒分もらって
道順が有るので
この順番で廻りますと指示され
不動産屋さんの車に同乗
家の図面を手渡された地点で
既に決めて有ったが
最初からそれって言うのも気恥ずかしい
少しはプライドも残っている
最初は3階建ての駐車場付き
家賃が6万
次は売り物件金額が20坪で980万
最後の目当ての物件
家賃3万6千
2階建て言う所のテラスハウス
この家を訪れた時には
既に夜の7時を回って居て
3月の寒空の下
明かりも無い少し離れた所の
街灯のにじむ光を頼りに
周りを見たが何も見えない
家のまん前に車を止めて
ドアを開くと玄関の中
車を止めてあるので
周りを見渡す事も出来ず
結局は予定通り
この家でとその場で手付金を支払い
次の日には契約
大慌てでもう一度周りを
確かめる事も無く
引っ越し当日
くねくね道を迷いながら辿り着くと
この家と思しき家の前は
何と今流行の
ゴミ屋敷???
黒いビニール袋に入れられた
何十ものゴミが玄関の前から
家のドアも閉まらないほど
中の階段がかろうじて見てとれる隙間も
ゴミの袋だらけ
2階を見上げると
其処にも何やら
袋が積み重ねてある
物を見るには目を開けて見える時に
見なければならない
今更引き返して
支払った敷金をどぶに捨てる余裕も無く
その夜慣れぬ布団の中で
是からの人生の始まりを想い
唇をかみしめていた
何事だろう?
仕事の為起きるのは5時過ぎ
目覚ましを見たら2時を少し回った所
壁伝いにドスン、バタンと
激しい音がする
その上何か?どなり声と言うか
うめき声と言うか
一言ハッキリ聞こえたのは
「この野郎」と男性のくぐもった声
あの声は
夕方引っ越しの挨拶に行った時に
聞いた隣の男性の声のようだ
此処も玄関先に
沢山の衣裳ケースを山と積み上げ
家を隠すように
小柄な男性が
扉を閉めたように感じた
一寸気になる家だ
引っ越しの荷物を運びいれる時に
外で柄の大きな細い男性と話をしていて
此方の目線に気付いたからか
慌てて客人を
追い返すそぶりをすると
客人帰りしな
「又来るぞ」と言い残し
バイクで帰って行った記憶がある
1時間位
喧嘩っぽい音がしていたが
後は静かに成った
昼間の疲れで寝入って
次に気付いたのは
目覚ましに起こされた5時
寒い中急いで出掛ける準備
今までより
仕事場から遠いので
早く起きなければならない
続編へ 沙羅より