一時の後、白き布を片手に

戻り来れば

湯殿の縁に頭を預け

お湯に体を任せたまま

伸びやかな心持


この湯殿は

右手に住まい

背に雑木の森

左手に人の世へと続く扉があり


目の前が大きく開け

空の彼方への想いある

左右から松の枝の張り出しで

湯の中の浅瀬に

体横たえ休む伏し殿の様になる


丁度湯に体を包まる深さ

手足大きく伸ばし

目の前の空を見て見れば

体の重みを湯が支え


湯のたゆとう様が

空を漂う雲の布団になり

力の限りを抜き去り

想いの限りを忘れ去り

波に揺られ

雲の間に間を漂い

人の気配も気付かぬ程に


湯船の深みよりそっと入り

投げ出した体に大きなタオルを掛け

体が浮き過ぎないように

揺れて流れてしまわないように


投げ出した手を取り

残ったコリをもみほぐして差し上げたい

なれど、人の手を借りずとも

温かい湯の揺れが

体をもみほぐし


ほぐされた体の中に染み入る

温かさに心も包まれ

ほんわりと

ほぐされて行く事


今しばらく

そっと夜霧の中で

見守る事にしようとて

深みの黒き影に佇む


己の体のぬくもり求め

肩先まで湯に沈もう


良い夢を  三話  沙羅より