車を降り、父を待つ僅かな間に、母は顔を見知った方に、ご挨拶をして居る。

猫の子ではないので菊花もご挨拶を返したが、何と言っても狭い町、御顔は時に見かける、菊花と同じ年代の女性、色の白い、ピンクのワンピースがよくお似合いで、少し幼く見えるようにであろうか髪は下ろしていらっしゃる。


女子高の一年先輩野田百合様。

先輩がピンクで髪を下ろし、菊花が薄紫の御着物で髪を上げて来たので、少し年上に見えるかもしれない。


所が母はしたり顔をして、愛想良くお話をされていらっしゃる、

幸い長くお話をする間も無く父と姉と都さんが来てくれた、

「其れでは、後ほど」と別れ父に連れられて門に入って行く。


この人数目立っているだろうと少し俯き加減で歩く、江姉さまはさすがに父のお仕事をお手伝いされて居るので、人々の中にお入りに成るのに気にする様子は無い、都さんも母の御伴で婦人会の集まりによく御出かけなので既に、回りの方から「都さん、今日は」と声が聞こえる。


それに、姉はお洋服をお召しだが、母は勿論、都さんと菊花は着物で来たので、女性の一個団体目立たない訳は無い。

そうは言っても、着物の方が圧倒的に人数が多いと思う。

それにしても、只市役所に勤務に成った方をご紹介するのに、この大がかりな集まりは。


何方もおかしいと御思いに成らないのかしら、不思議にキョロキョロ辺りを気にしているのは菊花位で、皆さん堂々としていらっしゃる。

玄関で恰幅の良い田中市長と奥様、それに既に市会議員を御勤めのご長男寛様と奥様千絵様、小学生のお二人の息子様並んで皆様のおいでをお待ちに成られたようで、父と母の後ろで神妙にご挨拶。


此処でも田中市長は江姉さんに親しい笑顔を向け、千絵様は都さんに、親しみのこもった笑顔を向ける、

お会いした事が無い訳ではないが菊花の顔を覚えていて下さる程の時間では無い、だが流石市長さん、人の顔を覚えるのがお仕事か、


「女学校の卒業以来ですね」と声をかけられて菊花はビックリした。

卒業式で一人一人と握手をして卒業生を送り出して下さったが、確かにあれ以来で、菊花は改めて、人とはこういうものかと気を引き締めた。


もう一年も前なのに記憶の中にハッキリ残っていらっしゃる方もいるのだ、菊花は人の顔を覚えておこう等と思った事は無かった。


改めて田中市長の目を真直ぐに見て

「菊花で御座います。本日はお招きを頂きまして、有難うございます。」と御返事を返した。

横から千絵様が「御綺麗ね、お嬢様3人もいらして、楽しみね、今日はごゆっくりね」と引き受けて下さり

「ありがとうございます」と父に付いて中庭に案内される。


人を侮るなかれ  沙羅より


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