自分の部屋に戻ってみると、待ちかねたさきが着替えをそろえて置いてある。

朝用の着物を脱ぎバスローブをはおり、都さんのお部屋を覗くと、もう既にお風呂に行ったと言う。

脱衣篭には都の脱いだ衣服が篭の中、自分用の篭に衣服を脱ぎ入れ、ドアを開けると、朝の太陽が湯船のお湯にきらめいて、大きく開いた窓からは、田植えの終わった青々とした田んぼが見えるはずだが、さすがに明るい時間なので、目隠しの御簾が下ろしてある。


散歩の後の少し汗ばんだ体に温めのお湯をかける、お湯好きな都さんは、汗をかきそうな雰囲気、湯の中にもぐりこみそう。


汗をかくと後が大変、お化粧はのらないし、衣服は体になじんで下さらないし、

江姉さまや都さんに比べると菊花は汗をかかないので過ごしやすいが、都さんは滴るほどに汗をおかきになる、母が余りぬくもりすぎないように、ご注意をされるのだが、熱いお湯がお好きときている。


「どんな方がお見えになるかしら?」

湯船の中で都さんが気になるらしく、髪をかき揚げ振り向く。

「そうね、先日市長の息子さん京都の大学を終えて戻ってらしたでしょ?あの方と、ご一緒に、此方の役所に採用された方もお見えではないかしら?」


都さんのほうが社交場の人の動きは詳しい、だが先日夕食の席で、父が話していた他所の人を市役所で雇っていると言う話だったので、それは、市長の息子の友人だろうと思える。


都さんも今日のお出かけの主旨は理解されていらっしゃると言う事だろう。


都さんが出た後御簾越しに届く光がお湯の上で踊るのを見ながら、自分の役目はどこにあるのかを考える。

この辺りでは裕福な家になる。勿論菊花の御蔭では無い、学者の父方の祖父が裕福な訳も無く、ひとえに母方の祖父の知識、決断力の賜物だろう。


それに見えないが母の算段能力、祖母から受け継いだ能力と言うが、的を外さず、居ながらにして、父や使用人を走りまわらせる、何方が自分が率先して働かなければ人は働か無い等とおっしゃったのか。

母は詩集をしながら、夕食の支度をする。

向き不向きは有るのだろうが、菊花はその能力が自分にも受け継がれている事を祈った。


現実はの江姉さまと可愛がられ人気を集める、都さんとの間で、自分の役割は何か?


生きて役立つ人に 他の為に  沙羅より


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