駅の近くにある小さな百貨店で傘売り場をうろうろ、と言っても面積がそんなに広いわけでは無い。
品数がやはり少ない、それに日傘の需要があまり無いのかもしれない。数本しか数が並んでいない、その中に白い傘は3本だけ。
沙羅は折りたたみの傘ではなく、柄の長い縁を黄緑色のレースの飾りで草の葉を散らした傘を見つけ買うことにした。
沙羅がレジに並ぶと桐村さんがさっさと支払いを済ませ、使うからと値札を切ってくれるように頼んでくれた。
そのあと、少し歩いて桐村さんの事務所によるからと、ついて行ったが、沙羅は小柄で歩くのも遅いが、桐村さんは背が高く歩くのも速いのだろうが、今日は沙羅に合わせて歩いてくれている。
事務所では2人の方が仕事中で男の方はこの暑いのに背広にネクタイ姿、年配の女性の方もキチンとした服装をしている。
桐村さんもネクタイをはずしてポケットに差しこんでいるが、背広姿だ。
上着をハンガーに掛け、一寸そこで待っていてと、来客用のテーブルに案内され、冷たいお茶を出していただいて、その横には塩まんじゅうのお菓子まで添えていただいた、よく表を見ないで入ってきてしまったが、何屋さんだろう?
お店の特徴を示すものがわからない、本当に只の事務所に見える。
机に座って事務処理をしているようだが、電話もなっていない、事務の方もパソコンばかりのぞきこんでいる、何とも静かな事務所。
沙羅の前に新聞と雑誌が載っていたので、新聞を拝借、雑誌は難しそうな車の本だ。
1時間位、静かに仕事をしていたと思ったら、突然電話が鳴って、沙羅は飛び上るほどびっくりした。
どうも森さんからの電話のようで、とても慌てている様子。
直美の妹がどうしたとか、受話器を握りながらすでに席を立ち、ジャケットを沙羅に放って持たせたかと思うと、女性の事務の方に車のカギを要求している。
そして、連絡するからと電話を切って慌てて電話を掛け直し、諒助叔父に電話を掛けている。