仕事中の諒助のほうが早い、もう坂を駆け下りている。

従業員の連中も降りて行っている。

桐村は車から降りると物置小屋からロープを担いで小道を駆け下りた。


諒助が大声で沙羅の名を呼んでいる。声が届いたのか平山さんが顔をのぞかせた。

日傘を見た位置より上流だ、桐村はもう少し下流の沙羅が通れそうな小道を探した。


人々の慌ただしい声が聞こえたのだろう、眠りから覚めた目であたりを見回している。

帽子の陰から日傘を探して川面をのぞいているが見当たらないのであきらめた様子だ。


まだ桐村には気付かない。

桐村は暫く自分の許嫁をじーっと見ていた。

後ろから声がする、あきらめて沙羅からは目を離さず

「いたぞー」と無事を知らせる。


その声に驚いて、慌てた沙羅が立ち上がった、桐村が手を差し伸べると怪訝そうな顔をしながらも素直に手を差しだした。


思わず力いっぱい握り返してしまったが、沙羅は平気な顔をしている。

小言を言うのは諒助にまかしておこう。


沙羅は諒助叔父にたっぷりとしかられた。

一人では決してあの小道を下ってはいけないことと誰も見ている人がいない時に無防備に動いてはいけない等々。


「頭が痛い!!」程叱られた。が沙羅も反省している。

平山さんはやはり土地で育った人で山や丘の斜面を登り降りするのは早い。

見えていると思っていたのにあっという間に見失ってしまったのだ、これからは用心しよう。


桐村さんはにらんではいたが口では何も言わなかった。騒動で遅くなってしまったが昼食に準備を手伝ってと和さんが救い出してくれた。