沙羅は大きなつば広野帽子をかぶり、日傘を差して後を追った。

こんな野暮な格好をしたくはないが、学校に戻れば、今の沙羅でも、真っ黒に日焼けした状態だと思うので、これ以上は日焼けをしたくない。少しくらい用心をしなければならない。


空は今日も少し暑くなりそうだ。

平山さんは足が速い。坂道を毎日歩いて畑仕事をしているので。とにかくお年の割には足が速い。

後を追って農道を下っている間に姿を見失ってしまった。


右に曲がったと思ったのだが。右の道は草ぼうぼうで、とても入っていけそうにない。それで左の獣道程度の筋が見えているほうにすすんでみたが平山さんは見えなかった。


あきらめて木陰になった草むらに腰を落とし、少し離れた川のせせらぎを聞いていると何時の間にか瞼が降りてきて、」開いたままの日傘が握った手の平から滑り落ちた、さわやかな風が吹き抜けると、白い日傘は、沙羅の手を離れ風に運ばれて、豊かな由良川の水の流れに落ちて行った。


広い由良川の流れで川向うの様子を全部見えるわけではないが、白い日傘が、流れに押しやられているのは車の中からでも見えた。


このあたりで今の時間に日傘をさして歩く女性を桐村は沙羅しか思い浮かばなかった。

しかし沙羅は川には知数かないはず、慌てて諒助に電話をかける。

沙羅が見当たらない。

桐村は車をUタウンさせ、アクセルを踏み込んだ。


対岸に行くには戻って橋を渡らなければならない。

日傘を見た位置だと、諒助の家の前の小道を下ったのだろう、それなら、日傘は直前に川に落ちたところということになる。

流されてはいないのだ。だが岸で人が溺れているような水しぶきは上がっていなかった。


もっと上流か?

上流には沙羅が下っていける道が無い。

しかし、沙羅が一人で水辺に下って行ったのか?