プチ家出をした翌日

私はいつもより早く学校へ行った。


まだ人気の少ない校舎

ゆっくりと歩きながら昨晩のことを考えていた。


夜の学校と朝の学校は全く違うものに感じた。

昨晩のことは全て夢だったのではないか・・・

それでも私の手には握ったT先輩の手の感触が残っているようで

少しくすぐったい感じがしたのを覚えている。


お昼休みになると

昨晩出会った転校生のAちゃんがやってきた。

今まで話したこともないのに

Aちゃんが私を訪ねてきたことが不思議だという様子で

クラスメイトが見ている。


私たちは昨晩のことを話した。

やっぱり夢ではなく現実だった。

Aちゃんは別の先輩に家まで送ってもらって帰った。

2人の間に何かがあったわけでもなく

ただ取り留めのない話をして帰っただけだと言った。


私もそうだと答えた。


T先輩とはきっとこのまま話すこともないんだろう

初めてときめいた思いや

初めてつないだ手の感触は

寂しく荒んだ私の心を暖かくしてくれた。

それだけで十分だと思った。


放課後、靴に履き替えて帰ろうとしていると

目の前にスラーっと背の高い人影が現れた。

T先輩だった。


「一緒に帰ろう。」


そう言って微笑むT先輩に

私の心はトキメキそして戸惑った。


私は少し頷いた。

そしてT先輩と並んで正門に向かって歩き出した。


「昨日大丈夫だった?」


T先輩は私が親に怒られたんじゃないかと心配してくれていた。

それを確認するために来てくれたんだなと

T先輩の優しさに益々心魅かれた。


正門へ向かう間に

色々な生徒の視線を感じた。


「え?何?どうしてあの2人が一緒に帰ってるの?」


そう話し合っているんじゃないかと想像できる雰囲気。

私はどうしたらいいのかわからず

恥ずかしさも手伝って俯き気味に歩いた。


家までの道のりはまた他愛もない話をして歩いた。

T先輩は私の家を覚えていてくれた。


家の前にくると昨晩と同じように

私の頭にポンっと手を軽く載せ


「じゃあね。」


と笑顔で去っていった。


「さようなら。」


そう言って見送り家の中に入ろうとした私は

ギョッとして一瞬立ち止まった。


玄関脇の駐車場に止められた車の脇に

継母が立ってこちらを見ている。


運悪く継母はいつもよりも早く帰宅したようだった。


(お父さんに告げ口される・・・)


心の中に一瞬で湧き起こった恐怖に震えながらも

できるだけ平静を装った。


「ただ今帰りました。」


挨拶をし、目をなるべく合わせないようにして家に入り、

自分の部屋に入るとその日の夜の塾の準備をした。

復習と予習。


学校の勉強はしないのに

学校の授業よりも進んでいる塾の勉強はしっかりしていた。


塾に行くために家をでる時間が近づいた。

いつも食事をしてから行くのでキッチンへと入っていった。


継母はまだ夕食の準備に取り掛かってもいなかった。


「ご飯、食べてもいいですか?」


少し遠慮がちに言ったが

その一言が継母の気分を害した。


「嫌味な子ね。まだ出来ていないのわかってるでしょ?

 本当に生意気な子

 中学生なのに男と帰ってくるだなんて。

 お父さんが知ったら何て言うか。」


そう言ってニヤリと笑った。


(父が何と言うか。

 それはあなたが父に何と言うかにかかってるでしょ。)


心の中でそう言ったものの

既に問題を抱えているのに更に問題を起こすことは

得策じゃないことはわかっていたので

何も言わずに食品棚の中からインスタントラーメンを取り出した。


お湯を沸かして3分でできる。

時間がない私にはちょうど良かった。

お鍋にお水を入れて火にかけようとすると

それが再び継母の怒りをかった。


「邪魔よ!

 晩御飯の準備しているのわかって、

 わざと邪魔してるんでしょ!!」


こうなったら継母は手がつけられない。

私がすることの全てが気に入らないのだ。


私は祖母が買い置きしてあるおせんべいの袋を手に取り

無言で居間に移動した。


「おばあちゃん、これもらってもいい?」


「いいよ。ご飯は?」


「まだみたい。塾に行かないといけないから。

 行ってきます。」


おせんべいをバリバリ食べながら

塾への道を歩いた。


外は薄暗い。

他の塾生たちは親が送り迎えをする。


私はいつも片道15分ほどの道のりを

一人で歩いていった。

どんなに暗くても雨が降っていても。


その方が楽だったので

送り迎えをして欲しいとも思わなかった。


塾が終わって家に帰ってから起こるであろう

その出来事を憂鬱に思いながらも

おせんべいを食べながら気を紛らわして

塾の入り口を入っていった。