逍遥遊 -2ページ目

逍遥遊

気が向いた時に記す手記
書棚の書籍紹介

史記の風景 (新潮文庫)/新潮社
¥460
Amazon.co.jp

古代中国二千年のドラマをたたえて読み継がれる『史記』。

中国歴史小説屈指の名手が、そこに溢れる人間の英知を探り、高名な成句、熟語のルーツを
たどりながら、斬新な解釈を提示する。

この大古典は日本においても、清少納言、織田信長、水戸光圀、坂本龍馬にと、大きな影響を
与えていたことに驚愕させられる。

世のしがらみに立ち向かった先人の苦闘が甦る101章。

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(ジャンル・・・エッセイ)


司馬遷の『史記』に記述されている内容を筆者独自の解釈を加えて紹介する
エッセイ。

入手したのは随分と前だけれど、一篇一篇が短いので座右において何回か
読んでいる本だったりします。

聞いた事のある故事の別な解釈なんかも書かれていて、面白いですよw



例えば「酒池肉林」。


よく美女に囲まれた宴の事のように言われますが、史記では文字通り
酒の池を作り、肉の塊を吊るして林にしたとしか書いていないんですね。

その後に
「男女を裸にして、その池や林の間を追いかけっこさせたりして遊んだ」
と書かれているから、これと混同されているのかも・・・。

いずれにせよ、豪勢な遊びの意味で使われています。


ただ筆者に言わせれば、酒池肉林は「遊び」ではなく「祭祀」だそうです。

今でも地鎮祭で酒を使うように、酒で地を鎮め、肉に祖先の霊を宿らせ、
清らかな女性達を裸にする事によって神霊を招こうとした。

酒宴はその飲食物に宿った霊力を皆に分け与える為の会合であったとか。


この事に関して筆者は、殷の事跡が後世の史家によって歪められて伝わった
と記述しています。

確かに上記の宴を行った殷を滅ぼしたのは、太公望や周公旦を擁する周
ですから、下剋上を正当化する為に貶める位の事はやったかもしれません。



また水戸黄門こと徳川光圀に関する話も興味深かった。


光圀さん、若い頃は手におえない不良少年だったそうです。

それが18歳の時に「史記」の「伯夷列伝」を読んでから更正したとか。


伯夷と言う人は孤竹国の君主の長男だったんですが、父親の君主は弟の
叔斉に跡目を継がせたがっていた。

そこで伯夷は身を引いて国を出るんです。

ただ叔斉も
「兄を差し置いて自分が君主になるわけにはいかない」
と言う事で兄の後を追って国を出るんですね。

また「呉太伯世家」では太伯が同じように弟の季歴に国を譲って自身は
身を引く。

この兄弟の話を光圀は自身の境遇に投影した。

即ち、兄の苦しみを史記によって悟ったそうです。
(光圀は三男で、上に二人お兄さんが居ました。)



なんだかんだいっても、結局日本と一番長い付き合いがある中国。
(コロコロ王朝が変わるので、こういうと若干語弊を感じるけど・・・( ̄ー ̄;)

その歴史書の中でも白眉といって良い史記は、文字に始まり、有名な故事、
日本史上の有名な人物にも多大な影響を与えていたんだなと改めて感じさ
せられる一冊でした。











白虎隊士飯沼貞吉の回生 第二版/ブイツーソリューション
¥1,890
Amazon.co.jp
会津飯盛山で集団自刃した白虎隊。隊士はなせ自刃したのか?

奇跡的にただ一人生き残った隊士飯沼貞吉が手記を残していた!

貞吉直系の孫が新たに発掘した資料に基づき克明に跡付ける。

NHK大河ドラマ「八重の桜」に登場する家老西郷頼母を叔父とし、
東大総長山川健次郎をはじめ山川家の兄弟たちを従兄弟にもつ貞吉の
数奇な生涯の全貌が今明らかにされる。


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(ジャンル・・・史料)


本書に触れた事に加え、昨年と今年、二回に亘って著者の講演も拝聴
させて頂いて、飯盛山以後の白虎隊に関する事柄もようやく把握できた
様な気がします。

(御茶ノ水レキシズルスペースにて行われた講演の模様)


飯盛山以後、電信技士として再出発する貞吉の生涯も興味深かったです。

日清戦争に従軍した際、自らは既に死んでいる筈の人間だと言って、
丸腰で戦場に臨む姿には純粋に惹かれました。

以下本文引用


技手や工夫達がみんな洋服の上に日本刀を背負っているのに、
飯沼だけは普通の背広姿で、広島を出る時さんざん外の人から
すすめられて持って来た手槍を一本共の人夫にかつがせている
きりだった。

「私は白虎隊で死んでいるはずの人間です。」

飯沼はピストルを持って行くようにすすめる私の言葉に答えて笑った。
飯沼は白虎隊の生き残りだった。

「命はすててますよ。」

電信局の玄関を離れる時そう言って正面に掛けてある
「大日本帝国郵便電信局」の横文字で書かれた金文字を
じっとみつめていた。

「元気で行って来ます。きっとやりとげますよ、船を使わんでも東京と
通信が出来るようにして見せますよ。」

ヘルメットをぬいだ飯沼は、電信局の門のわきに立っている日の丸を
仰いで明るくいった。

そうして飯沼貞雄の一隊は二日前、決死の電信建設行に旅立ったのだ。



戊辰の戦に幕府側として参戦した人には皆、どこかに共通する死生観
あったのかも・・・。


遊撃隊に参加した脱藩大名・林忠崇も『時世の句は明治元年にやった』
と言い残して世を去ったと言われています。
(ちなみに亡くなったのは昭和16年、太平洋戦争開戦の年だとか。)

YouTubeで見つけた林忠崇の動画


また、気になっていた白虎隊の隊長・日向内記の事跡に関して触れられていた
のも嬉しかった。

自分も今まで、白虎隊を見捨てて逃亡した卑怯者という通説を信じ込んでいた
けれど、そうじゃなかったんですね。


内記は斗南に移った旧会津藩士達を救済する為に食料を支援したそうです。

支援の中心となるのは米になる訳ですが、生産が制限されており、
大量に買い付ける事が出来ない。

そこで大量に米を仕入れる名目として酒造を興す事を思いつく。
平野吉重なる人物に娘を嫁がせ、酒造を営ませ、入手した米を斗南へ送る。

ただ娘を嫁がせる際、出自は不明とさせて自らの名前を表に出す事は
無かったとか。

政府側にも会津側にも気を遣った結果なのでしょうけれど、切ないです・・・。



幕末期においては、秋月悌次郎と奥平謙輔、
明治期においては、山川健次郎と前原一誠。
また本書における、飯沼貞吉と楢崎頼三。

個人ならば分かり合えるのに、会津・長州といった体制を介すると
憎しみあってしまう・・・。

現在における日本と中国、日本と韓国にも通じるものを感じました。




ちなみにリンクは第二版になっていますが、自分が入手したのは初版本。
更には著者のサイン入りだったりします。

逍遥遊-著者のサイン




居酒屋のお通しは必要? ブログネタ:居酒屋のお通しは必要? 参加中

私は不要 派!

本文はここから

店にもよるけれど、基本的には不要かも。

そこまで腹を空かして行く事も無いし、最初は純粋に酒の味を
楽しみたい気がする。



お通し、又は突き出しとも言うそうだけれど、頼んだ肴が出てくるまでの
繋ぎとして出されたのが起源だとか。

網が乗っかった小型の七輪に、カワハギの干物を載せて「自分で好きな
塩梅に焼いて下さい」と出された、近所の居酒屋のお通しは面白かったな。






居酒屋のお通しは必要?
  • 必要
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気になる投票結果は!?

興亡と夢 2 (集英社文庫)/集英社
¥720
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盧溝橋事件に端を発した日中戦争は、何度か終結のチャンスがありながら、
それを活かせず、泥沼に入っていた。

一方、ヨーロッパでは、野望に燃えるヒット ラーの下、ナチス・ドイツがオーストリア、
チェコスロバキアを侵略し、ついに大陸は第二次世界大戦へと突入していく。

やがてそのうねりは、日本にも押し寄せてきた…。


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昭和史を描く全5巻のうちの2巻目。

第一次近衛内閣の国家総動員法成立に関する辺りから、日独伊三国同盟に、
日本が加盟するか否かといった瀬戸際の辺りまでが描かれています。


1巻を読んでいた時も感じたけれど、日本の昭和史だけを描くのではなくて、
ナチスドイツ、イタリア、ソ連に関する記述も非常に多い。


様々な技術の発展で世界が狭まり、一国の歴史だけを追っていたのでは、
正確に当時の情勢を把握する事が出来ないという筆者の意見には共感を
覚えます。

この辺りの時代になると、日本史・東洋史・西洋史といった区分けは
ナンセンスなんだとか。



ナチスドイツに関しては、ハインツ=グデーリアンの回想録や参謀本部系
の本を幾つか読んだ事があるので、知っている事が幾つかあったかも。

ただ、
『ヒトラーがオーストリア併合を目指したのは、自身の
出身地・ブラウナウをドイツ領とする為』

という話は初めて聞きました。

ドイツの支配者がドイツ出身でない事に拘った為だそうです。

また、イタリア・ソ連に関しては全くノーマークだったので色々と
勉強になりました。



個人的に面白いと感じたのは、筆者が言う明治維新に一番影響を
与えた外国人に関する話。

筆者の考えとしては上記外国人として、蒸気機関に改良を加えた
ジェームズ・ワットを挙げています。

蒸気機関の改良により兵力の大量輸送が可能となった為、アヘン戦争
も可能となり、日本へ黒船もやってきた・・・。

確かに、言われてみればそうかもしれないと納得してしまいました。



筆者自身の意見を交えつつも、事実を淡々と描いている印象があるので、
敗戦へ突き進む悲惨さは、当初予想していた程には感じなかったです。








五代群雄伝 (1972年)/中央公論社
¥788
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中国・五代十国時代のうち、五代(華北を中心として成立した王朝)
の人物を描いた本です。
時代としては前に紹介した『馮道』と同じ時代の話ですね。

構成としては、


第一話・朱全忠

第二話・李存勗

第三話・後唐荘宗(上記・李存勗の事)

第四話・後唐明宗(李嗣源。李存勗の父・李克用の養子)

第五話・後唐末帝(李従珂。上記・李嗣源の養子)

第六話・後晋高祖(石敬瑭。上記・李嗣源の娘婿)

第七話・後漢高祖(劉知遠。上記・石敬瑭の部下)

第八話・後周太祖(郭威。 上記・劉知遠の部下)

第九話・後周世宗(柴栄。 上記・郭威の養子(郭威の奥さんの弟の息子))


以上の順で章が立てられていますが、『傳』としながらも列伝調ではなく、
一つの物語として話が進みます。

この時代の特徴として優秀な人物は主君亡き後、ほぼ独立して皇帝になって
しまうという点が挙げられるかもしれません。

三話~五話までは王朝名が同じになっていますが、括弧に記して在るとおり
後継者が実子では無いんです。

乱世ということもあり、優秀な人物は重宝される反面、裏切りが警戒される
訳で、「養子」もしくは「仮子」といった形で苗字を与えて一族扱いにして
しまう事がよく行われています。

この辺りは日本の戦国時代にも似た印象を受けますね。
(蒲生氏郷の家臣団は蒲生姓の人が沢山居ますし、徳川幕府に到っては
前田も伊達も島津も毛利も、正式には「松平」になっていますから)


ただ、日本だとあまり聞かないんですが、中国のこの時代だと後継者を輔ける
どころか、跡目争いに参加する大義名分を与えてしまう様な形になってしまって
います・・・。

また不思議な事に後唐荘宗(李存勗)、後唐末帝(李従珂)、後晋高祖(石敬瑭)
は何れも主君に仕えていた時は颯爽として名将の風格があるのですが、帝位に
就いた途端にグダグダになって愚人化・凡人化してしまうんです。

後唐荘宗
TOPに立って気が緩んだ。

・後唐末帝
国の統治の明確なビジョンが無いまま、権力欲に任せて帝位に就いた為、
後が続かなかった。

・後晋高祖
帝位に就いた際の大義名分が弱く、更には北方から契丹の「遼」王朝の
重圧があった為、その勢力に屈せざるをえなかった。

といった所でしょうか。

後唐明宗、後漢高祖、後周太祖に関しては上記三人とは違って王朝の始祖
らしく英明さを保って終わりを全うしています。

ただ上記三人も最後の後周世宗と比べると一段下がる印象を受けるかも。


後周世宗、日本における織田信長によく例えられる人物だそうです。

三武一宗の法難と呼ばれる仏教弾圧を行った事も関連しているかもしれません
が、才気煥発にして剛毅果断な性格を考えると確かに似ています。

ただ、史書によれば「恐れられながらも懐かれた」と評されているあたり、
信長に似て信長を超えていたと言ってもいいかも。

惜しむらくは若くして亡くなってしまうのですが、彼が長生きしていれば、
五代十国の騒乱はまた別な形で終焉を迎えたのではないかと思います。

世宗亡き後、彼の部下であった趙匡胤が周囲に推される形で帝位を譲り受け、
「宋」王朝を建てます。(昨年大河ドラマでちょこちょこ出てきた「宋」の国の誕生です)

趙匡胤は世宗の一族を保護し、これが水滸伝に出てくる小旋風・柴進に繋がる
そうです。


遣唐使で知られる唐の滅亡から、宋銭の流通で日本にも影響を与える『宋』の
成立までの話。

三国志なんぞ比べ物にならない位複雑で、かつ面白い時代だと思います。

本書はその魅力を十分に伝えている良著だと思うのですが、絶版なのが悲しいところ。

大学時代にネットで存在を知り、新宿西口の古本市で偶然見かけ、喜び勇んで
購入した記憶があります。

幸いな事にアマゾンでは古本も出回っているようですが、吉川三国志を新装版で
出す位なら、こういった本をもっと復刻してほしいものです。




興亡と夢 1 (集英社文庫)/集英社
¥760
Amazon.co.jp
平成時代の基礎となった昭和の時代。

戦争から経済大国へ、激動の昭和をもたらしたものは何だったのか。

「2・26事件」によって幕あけた狂気の時代を、壮大なスケールで捉えた感動の昭和史。

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昭和史を描く全5巻のうちの1巻目。

本書では二.二六事件と同じ年に発生した猟奇事件・阿部定事件から
始まり、南京大虐殺の辺りまでを描いています。

日本の動きだけではなく、ヒトラーやムッソリーニ、スターリンといった
人物の権力掌握の過程も描かれていたのは勉強になりました。

阿部定の事件が、当時としては規制される事も無く世間に広まったのは、
二.二六事件の暗さを払拭する為のパフォーマンスであったとか。

二.二六事件、昭和史を読んで行こうと思った切っ掛けの一つでした。

三島由紀夫の『英霊の聲』で描かれた決起将校の描写に反発を感じたのが
一番の原因でしたが、本書で安藤輝三の話を読むにつけて、嫌悪感が大分
和らいだ気がするかも。

『英霊の聲』は磯部浅一の影響も受けて書いたと言われているそうですが、
その後の三島自身の行為を見ていると、むしろ上記の安藤に似ているように
感じました。(国を思った上の止むに止まれぬ決起という印象があります)

また南京大虐殺の下りで筆者は、戦時における残虐行為が発生する原因は
人類蔑視であると述べています。

一般的に言われる、戦場での異常心理が原因であるのならば、戦争当時国
双方に発生しなければならない。

しかしながら、ドイツはフランスに対してはそれをやらず、アメリカは
ベトナムではやったものの、ドイツに対してはやらなかったとか。

結局のところ、根底に人種差別が存在して、戦時の異常心理がそれを後押し
するのでしょうね。

2巻以降は敗戦にむかって突き進んでいく描写になると思うと、若干辛い・・・。

随所に映画や芝居、スポーツに関する逸話も散りばめられているのが、
重苦しさを和らげてくれるので助かりますが・・・。





覇道三国志―曹操の壮心やまず/東京書籍
¥1,631
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抜群の軍略家にして政治家、かつ詩人であった曹操のドライで野性的な人間像。

三国志の時代精神は、まさに曹操にあり。

覇者・曹操の激烈な生涯。


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(ジャンル・・・小説)


蜀視点での三国志に厭きてきた高校時代に出会った一冊。
副題にあるとおり、魏の武帝・曹操を主人公にした小説。

当時としては三国志も今ほど流行ってはいなかった気がする。

横山光輝三国志がアニメ化されたりもしていたが、今にして思えば、
男性だけの物といった印象があった。

ゲームにしても、古き良き光栄の正統派SLGである三国志位
しか無かったのではなかろうか。
(光栄からコーエーに変わってからSLGの三国志も変わってしまったが・・・)

また今でこそ蒼天航路や無双の影響で、魏陣営は人気があるようだが、
当時は小説といえば、蜀側からの視点で描いた本ばかりだった。

その為、本書を見つけた時は喜び勇んで購入した記憶がある。

書き出しも三国志にアリがちな黄巾党の騒乱からでは無い。

第一章は曹操が官渡決戦で袁紹を破った後、その配下・審配が守る鄴が
陥落した所から始まる。

家族を殺された辛毗に審配が罵られる下りや、沮授が降伏を拒否して
惜しまれつつも斬られる場面など、当時としては省略されがちだった
状況もしっかりと描いているのが嬉しいところ。

荀彧の死に関する辺りも、漢王朝の忠臣を邪魔になって粛清するといった
描き方では無かった。

漢王朝の臣でありながら、曹操の最も信頼する参謀でもある立場に苦しむ
といった描写は、自分の中の荀彧像そのものである気がする。

全体的には、正史の曹操像に近い描かれ方をしているように思う。

入門書とは言い難いかもしれないが、三国志にある程度興味を持っていて、
曹操陣営が好きな方には十分楽しめる一冊かもしれない。





炎環 (文春文庫 な 2-3)/文藝春秋
¥570
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それまでにない形で、鎌倉に成立した武士たちの政権。
そのまわりに燃えさかる情熱と野望の葛藤を見事に描き出した連作小説。
NHK大河ドラマ「草燃える」原作

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(ジャンル・・・小説)


著者の代表作にして、直木賞受賞作品。
鎌倉時代に生きた以下の4人の人物を描いた短編集。


悪禅師・・・阿野全成 (幼名:今若、母親:常盤御前、源義経の同母兄) 

黒雪賦・・・梶原景時

いもうと・・・北条保子(北条政子の妹、上記・阿野全成の妻)

覇樹・・・北条義時


「悪禅師」・「黒雪賦」では、源氏の血筋を中心に体制を固めて行こうとする
一派の動きが描かれる。

対して後半の「いもうと」・「覇樹」では、源氏の血筋に拘る事なく、
北条氏を中心とした武家政権の樹立が描かれている。

当初は「覇樹」の義時目的で購入した一冊だったが、実際に読んでみると
「黒雪賦」の梶原景時に一番惹かれた。

自分の中にあった景時像とピタリと当て嵌まったという気がする。

源義経に対する判官贔屓の煽りをくらって、評判がよくない梶原景時だが、
頼朝死後の周囲の動きを見ていると、源氏という主家にとって一番の忠臣
は彼だったのではなかろうか。





劉裕―江南の英雄宋の武帝 (中公文庫)/中央公論社
¥368
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混乱うちつづく六朝時代、王朝は乱立し、またそれぞれの王朝内では権力争奪の戦いによる
殺戮がくり返され、さらに異民族の絶え間ない侵略にさらされていた。

宋の劉裕は、武力によって一介の武将から皇帝の地位をうばいとった。その激闘の日々と人間を、
流動する時代とともにあざやかに描く。

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(ジャンル・・・史料)

三国志の時代の後、司馬氏により西晋が建てられるが内部抗争の末
北方異民族の侵入によって滅亡、一族が南へ遷って亡命政権の東晋
を建てる。(2月の『西晋の武帝・司馬炎』参照)

本書では、その東晋を簒奪し新しい王朝を建てた劉裕の生涯を描く。

劉裕の生家は草履を売って生計を立てていた程貧しく、彼自身は学問を
嫌い博打を好み、無頼の徒として過ごす。

軍人としては一兵卒からの叩き上げで、自らの実力のみで皇帝の地位
まで上り詰めた。

三国志の劉備に似た経歴を持つ人物ではあるが、異なる点が幾つかある。

まず国号。

三国志の時代以後、帝号を唱えた劉姓の人物は幾人か居るが、その際の
国号は殆どが『漢』としている。(五胡十六国時代の劉淵、五代十国時代の劉知遠、劉崇)

だが本書の劉裕は自らの国号を『宋』とした。

東晋王朝から宋王に任じられていた事もあったが、漢王朝の血筋を利用する
つもりが無かったのかもしれない。
(彼から数百年後になっても漢の国号に拘る人物が居る事を考えると、いっそ潔さを感じる)


また劉備は魏王朝打倒を目指しながらも、結局は蜀の地から抜け出す事が
出来ずにその生涯を終えたが、本書の劉裕は東晋王朝の悲願であった
長安・洛陽の奪還を成功させている。

劉裕は長江の南から北を攻めて成功した、中国史上数少ない成功者の一人
なのである。
(もっとも、東晋王朝簒奪に向けてのパフォーマンス的要素が強く、制圧した地を維持する意思は
無かったようだが・・・)


東晋から政権を簒奪する際には、今まで協力体制にあった同僚の将帥を
謀略にかけて粛清するなど、このあたりは前漢の劉邦を思わせる。


ちなみに劉裕が名を上げた反乱討伐だが実は宗教反乱で、その宗教とは
五斗米道であった。
更にその指導者・盧循は三国志演義で劉備の師とされている盧植の子孫と
いうのだから面白い。

三国志も確かに面白いが、いつまでもその時代に拘っているのは勿体無い。

三国時代の動乱は、その後に起こる異民族を交えた離合集散の序章でしか
無いと思うのだが・・・。




いつの日か還る―新選組伍長島田魁伝 (文春文庫)/文藝春秋
¥840
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新選組を心から慈しんだ男の物語

新選組伍長として幕末の動乱を戦い抜いた寡黙な巨漢・島田魁。
終身、新選組に忠義を尽くし続けた男の波瀾の人生を描いた剣豪小説

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(ジャンル・・・小説)

土方や斉藤、沖田といったメジャーどころと比べると
いまいち影の薄い印象のある島田魁が主人公の小説。

有名どころがあまり好きでない自分としては新撰組物
を読むのは久しぶりである気がする。
(近藤・土方・沖田絡みは手をつける気が起きない・・・)

島田魁、個人的には
新撰組全体に感じるドロドロした権力抗争
とは一歩離れた雰囲気を感じ、
晩年の行為の影響か、どことなく
いい人といった印象を持っていた人物。

鳥羽伏見の戦で鎧姿の同志を塀の上に軽々と引き上げる程
怪力を持ち、晩年は西本願寺で同志達の菩提を弔った事で
知られる。

小説の中での魁は素朴で純真、気は優しくて力持ちという
好人物を絵に描いたような人物として描かれていた。

好漢と呼ぶには覇気が足りない観はあるが、後半に描かれる
家族と同志の為に生きる姿は『壬生義士伝』の吉村貫一郎に
似ているような印象を受ける。

単行本の方は鳥羽伏見から江戸に向かう船に乗った所で話が
終わっていたらしいが、文庫版では筆者が以前に書いた島田魁の
短編『巨体倒るとも』(徳間書店『名剣士と照姫さま』所収)を最終章
として掲載している。

昔は大河ドラマに連動して主人公だけではなく、その周辺の人物
を描いた小説がPHP文庫などからよく出ていたものだが、最近は
あまり見かけない・・・。

会津といえば新撰組も絡むのだから、こういった形で名の広まって
居ない隊士達にも光を当てて欲しいものだ。