- 史記の風景 (新潮文庫)/新潮社
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古代中国二千年のドラマをたたえて読み継がれる『史記』。
中国歴史小説屈指の名手が、そこに溢れる人間の英知を探り、高名な成句、熟語のルーツを
たどりながら、斬新な解釈を提示する。
この大古典は日本においても、清少納言、織田信長、水戸光圀、坂本龍馬にと、大きな影響を
与えていたことに驚愕させられる。
世のしがらみに立ち向かった先人の苦闘が甦る101章。
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(ジャンル・・・エッセイ)
司馬遷の『史記』に記述されている内容を筆者独自の解釈を加えて紹介する
エッセイ。
入手したのは随分と前だけれど、一篇一篇が短いので座右において何回か
読んでいる本だったりします。
聞いた事のある故事の別な解釈なんかも書かれていて、面白いですよw
例えば「酒池肉林」。
よく美女に囲まれた宴の事のように言われますが、史記では文字通り
酒の池を作り、肉の塊を吊るして林にしたとしか書いていないんですね。
その後に
「男女を裸にして、その池や林の間を追いかけっこさせたりして遊んだ」
と書かれているから、これと混同されているのかも・・・。
いずれにせよ、豪勢な遊びの意味で使われています。
ただ筆者に言わせれば、酒池肉林は「遊び」ではなく「祭祀」だそうです。
今でも地鎮祭で酒を使うように、酒で地を鎮め、肉に祖先の霊を宿らせ、
清らかな女性達を裸にする事によって神霊を招こうとした。
酒宴はその飲食物に宿った霊力を皆に分け与える為の会合であったとか。
この事に関して筆者は、殷の事跡が後世の史家によって歪められて伝わった
と記述しています。
確かに上記の宴を行った殷を滅ぼしたのは、太公望や周公旦を擁する周
ですから、下剋上を正当化する為に貶める位の事はやったかもしれません。
また水戸黄門こと徳川光圀に関する話も興味深かった。
光圀さん、若い頃は手におえない不良少年だったそうです。
それが18歳の時に「史記」の「伯夷列伝」を読んでから更正したとか。
伯夷と言う人は孤竹国の君主の長男だったんですが、父親の君主は弟の
叔斉に跡目を継がせたがっていた。
そこで伯夷は身を引いて国を出るんです。
ただ叔斉も
「兄を差し置いて自分が君主になるわけにはいかない」
と言う事で兄の後を追って国を出るんですね。
また「呉太伯世家」では太伯が同じように弟の季歴に国を譲って自身は
身を引く。
この兄弟の話を光圀は自身の境遇に投影した。
即ち、兄の苦しみを史記によって悟ったそうです。
(光圀は三男で、上に二人お兄さんが居ました。)
なんだかんだいっても、結局日本と一番長い付き合いがある中国。
(コロコロ王朝が変わるので、こういうと若干語弊を感じるけど・・・( ̄ー ̄;)
その歴史書の中でも白眉といって良い史記は、文字に始まり、有名な故事、
日本史上の有名な人物にも多大な影響を与えていたんだなと改めて感じさ
せられる一冊でした。